3.5.15 海溝近傍での海洋プレート変形に伴う水・熱の流動過程の研究

近年,日本海溝海側のアウターライズ付近で行われた観測調査により,沈み込みに伴う太平洋プレートの屈曲変形に伴い,プレート上層部で水や物質・熱が活発に移動することを示す現象が,相次いで発見された.プレート内火成活動(プチスポット),広域的な高熱流量異常,地震波速度構造の異常などである.速度構造の異常はプレートの変形で生じた亀裂に水が取り込まれたことを示唆しており,熱流量異常も,海洋地殻の破砕によって透水性が増し,流体循環が発達して熱を運ぶことで生じると考えられる.このような海溝海側での水と熱の流動は,沈み込むプレート表層部の温度構造と水分布を大きく変化させ,プレート境界の地震発生帯付近の環境条件に影響を及ぼすものである.

 

一方,海溝海側で海洋プレートに水が侵入し,沈み込み帯に持ち込まれる過程は,物質循環やマグマの成因等の観点から,物質科学分野においても注目を集めている.地球物理と物質科学を含む幅広い分野が連携し,海溝海側で何が起きているかの研究を進めることが重要と考えられる.このため,地震研究所共同利用研究集会や日本地球惑星科学連合大会でのセッションを開催し,多様な分野の研究者による議論や情報交換を行ってきた.その結果に基づき,水と熱の流動による沈み込むプレートの改変過程の解明を目指す,総合的な調査研究計画(観測航海,掘削調査等)の立案を進めている.具体的な調査として,2017年には日本海溝のアウターライズにおいて,人工電流源を用いた電磁気探査を実施した.