3.6.2 伊豆大島

(1) 地震・地殻変動と広域応力場

 水平方向の広域応力場が卓越する場にある伊豆大島のような火山では,山腹割れ目噴火やダイク貫入がしばしば発生する.1989年の噴火においても,大規模なダイク貫入が起こり,山腹割れ目噴火を引き起こした.比較的粘性の低いマグマを持つ伊豆大島のような火山においては,しばしば山腹割れ目噴火が発生する.カルデラ内にある山頂で噴火する場合と異なり,居住地近くで噴火を引き起こす山腹噴火は火山防災上の大きな問題である.そのため,山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかを解明することを目指して研究を進めるため,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入を研究も併せて進めている.地震と地殻変動の同時解析から,これらの地域でのダイク貫入現象について多くの知見が得られた.1986年11月に開始した先の噴火から既に30年以上経過し,次の噴火に近づいていると考えられることから,同様の状況にある三宅島の問題と併せて,2017年12月25日~26日に地震研究所共同利用研究集会「次の伊豆大島・三宅島の噴火について考える」を開催した.この研究集会では,1986年伊豆大島噴火,2000年三宅島噴火についてのレビュー,その際に解決されなかった問題,噴火後の最新の研究成果について24件の発表があった.両火山の今後の活動への関心の高さから,全国の研究者や行政関係者併せて131名の参加があった.この集会により,前回の噴火を経験した世代から,噴火を知らない世代への知見の伝達を行うことも,火山学への重要な貢献である.伊豆大島に観測網を有し,前回の噴火以降のデータの蓄積のある本研究所が全国の火山研究の中核の一翼を担い,次回の伊豆大島噴火前及び噴火後についての研究を推進することが強く期待されている.

(2) 地震・地殻変動によるマグマ蓄積過程

伊豆大島では前回の噴火(1986年11月~1990年10月)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後長期的には山体膨張が継続している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようにした.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,ほぼ同じ場所で膨張と収縮を繰り返していると推定され,伊豆大島カルデラ北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.地震活動と地盤変動の関連については,基盤センターの項で詳述する.

(3) 伊豆大島における比抵抗構造と電磁気観測

 伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場測定の連続観測も引き続きおこなっている.