1. はじめに

 本年報では,東京大学地震研究所の2017年度における研究・教育活動の全般について報告します.
 2017 年度は,その前年度に国立大学法人東京大学の第3期中期計画,及び地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点としての第2期認定期間が開始し,それらの計画に従って順調に研究活動を行ってまいりました.前者に関しては, 2015年度に就任した五神総長のもとで「東京大学ビジョン2020」が策定され,「知の協創の世界拠点」としての使命に向け,東京大学で展開されている学問の多様性と卓越性を十分に活用することが示されており,その内容が第3期中期計画に反映されています.後者では,第1期認定期間に引き続き地震・火山科学の拠点として国内の研究コミュニティにおける研究活動を推進するとともに,国際性や他の研究分野との連携を進めることで更に拠点としての位置づけを強化することが求められています.
 これらの方向性は,地震・火山現象の科学的理解とこれらの現象に起因する災害軽減方策の探究といった地震研究所の設立当初からの使命の遂行を加速するものであり,本年報の随所に国際共同研究や分野を超えた融合研究の推進に関する成果が報告されています.この中で特筆すべき事業の一つとして,2017年度に創設した本学の連携研究機構制度により,地震研究所と前近代日本史史料に関する蒐集・研究・編纂を設置目的とする東京大学史料編纂所の地震学・火山学の研究者,日本史学の研究者が協働して新たな研究手法の開発を推進する「地震火山史料連携研究機構」を2017年4月に設置し,本学における新たな文理融合研究拠点の構築を進めました.
 ところで,本年報に掲載されている所内研究者の研究活動は実に多様であり,固体地球を研究対象とする研究機関としては世界的にも随一の多様性と卓越性を有していると言っても過言ではないでしょう.これらの研究活動は,運営費交付金が年々削減される状況のなかで,共同利用・共同研究拠点としての共同研究経費や,それ以上に,各教員の豊かな発想と努力のもとに獲得した科学研究費や委託研究などの外部資金によって実施されています.一方,これらの研究活動は,技術職員による膨大な調査・観測・実験等に関する支援業務によって支えられており,各技術職員の活動内容についても本年報に記載されています.
 前述の東京大学ビジョン2020には,附置研究所の教育機能の活用も求められていますが,地震研究所の教員は理学系・工学系・情報理工学系研究科の大学院教育を担当するだけでなく,学部・教養学部教育への協力や出講,留学生やインターンシップ研修生の受入や国際サマースクールなどの教育活動も積極的に行なっています.地震研究所における教育の特色は,学生に対して実験や観測といった臨場感あふれる先端的研究の最前線に触れる機会を提供することであり,人材育成の面においても重要な機能を果していると言えます.

東京大学地震研究所長 小原一成