3.10.5 合成開口レーダーによる有珠山溶岩ドームの噴火後の沈降の観測

 有珠山は北海道南西部に位置し,1910年・1943-1945年・1977-1982年・2000年に噴火した活動的な火山である.有珠山のマグマは粘性の高いデイサイト質であり,噴火にともない溶岩ドームを形成することが多い.本研究では,合成開口レーダーを用いて貫入した溶岩ドーム周辺の地殻変動を計測した.合成開口レーダーデータは,JERS-1 (1992-1998年)・ALOS (2006-2011年)・ALOS-2 (2014年-2017年)の各衛星によって撮像されたものを用い,1992年から2017年にかけての地殻変動を求めた.その結果,1910年噴火の際に貫入した溶岩付近では顕著な地殻変動が観測されなかったが,1943-1945年・1977-1982年・2000年噴火にともない貫入した溶岩ドーム周辺では沈降が観測された.そのうち,1943-1945年噴火にともない貫入した溶岩ドームでは1992年から2017年にかけてほぼ一定の割合で沈降が続いたのに対して,1977-1982年・2000年噴火にともない貫入した溶岩ドームでは次第に沈降速度が減衰していくことが観測された.
 観測された地殻変動は,地下数100メートル付近に貫入したマグマが熱収縮することによりよく説明できた。見かけの熱拡散率は1943-1945年噴火にともなう溶岩ドームについては実験室で求められた岩石の熱拡散率とほぼ同じであったが,1977-1982年および2000年噴火後の地殻変動に対応する見かけの熱拡散率は,実験室で求められた岩石の熱拡散率の約10倍であった.有珠山のごく近傍には洞爺湖が存在すること,有珠山ではマグマ水蒸気噴火が頻繁に発生することから,有珠山地下には熱水が多く存在することが予想され,噴火直後には熱水の活動が盛んで熱水が貫入したマグマの熱をより効率的に逃していることから,見かけの熱拡散率が高く求められたと考えられる.