3.11.3 活動的火山における多項目観測研究

地震研究所では,文部科学省科学技術・学術審議会が関係大臣に建議する研究計画「災害の軽減に貢献する地震火山観測研究計画」に基づき,全国の中枢となって地震・火山観測研究計画を多くの大学・研究機関と協力して推進している.この研究計画に基づき,火山災害の軽減を目指して,観測,実験,理論の各手法を用いて火山現象の解明とその成果に基づく火山噴火予測に関する研究も行っている.当センターは主として火山観測基盤の充実を担って,火山噴火予知研究センター等と協力して観測に基づく火山噴火予測研究を実施している.火山研究においては,噴火発生時の諸現象を精度良く捉えて噴火現象に関する新たな知見を得ることも重要であるが,場合によっては10年以上の準備段階を経て噴火に至るまでの火山内部のわずかな変化を捉え,その原因を科学的に解明することが重要である.そのような科学的な火山現象の解明から,噴火の前兆現象に大きく依存する経験則による現在の火山噴火予測を,より普遍的な科学的な火山噴火予測に発展させることができると考えている.その実現には精度の高い各種観測データを長期に安定して蓄積することが重要である.このような考え方は,約40年前から始まった火山噴火予測研究に関する最初の建議である「火山噴火予知計画」から引き継がれ,現在に至っている.

特に,本研究所ではこれまでの「火山噴火予知計画」で観測網が整備された浅間山,伊豆大島,富士山,霧島山,三宅島の5火山を中心に長期的・継続的な観測を行っている.これらの火山においては,地震・地殻変動・全磁力変化・空振観測・熱映像・可視画像等の多項目の観測を行い,噴火に伴う諸現象,噴火前に起こる前兆現象を捉え,その物理・化学過程を明らかにする研究を実施している.また,この他の火山においても,他大学・機関との協力し様々な観測を実施している.ここではそれぞれの火山における観測の現状と観測研究の目的や意義について述べる.具体的な研究成果については,火山噴火予知研究センター及び地震火山噴火予知研究推進センターの報告との重複を避けて記述した.

(1) 浅間山

浅間山では,広帯域地震,短周期地震, GNSS,傾斜,全磁力,空振,熱映像,可視画像の観測を行い,浅間火山観測所と小諸火山観測所を拠点として観測網の維持管理を行っている.観測データは,山頂付近では自前のLANの中継あるいは自前の光ファイバーを経て浅間火山観測所に集約され,本研究所までインターネット高速回線を用いて伝送されている.また,観測点の通信状況などに応じて 衛星回線や有線回線,携帯データ通信を利用したデータ転送も行われている.

浅間山では,2004年の中規模な噴火以降,2009年と2015年に極めて小さな噴火を繰り返している.それぞれの噴火前に,浅間山西方深部にあるマグマ溜まりの増圧を示す地盤変動がGNSS観測から捉えられ,深部からのマグマの供給が捉えられている.また,それぞれの噴火前から,火山ガスの放出量が増加すると共に,マグマ溜まりから火口へ通じる火山ガスの流路の内,浅部にある隘路にあたる部分がガスの流入により膨張してガスの放出により収縮する際に発生する長周期の地震動(VLP)が観測されている.VLPの発生頻度と火山活動の大きさは,大局的には比例しているが,細かく見ると若干の差異が見られる.これらの観測されている地盤変動,VLPの活動,火山ガスの放出量などの観測事象と,次に起こる噴火の規模の関連を明らかにして,噴火の規模の予測に結び付く研究を進めることが,浅間山における観測研究の意義のひとつである.

(2) 伊豆大島

伊豆大島では,1986-87年の前回の噴火から30年以上が経過し,明治以降の平均噴火間隔が30~40年であることから,次の噴火が近いと予想され,噴火に至る諸現象が現在地下で進行していると考えられている.これらの現象のいくつかは各種観測装置から明らかになりつつある.現在,伊豆大島には24点からなる地震観測網と 14点からなる GNSS観測網によって地震及び地盤変動観測を行っている.地震観測点の内 4点は広帯域地震観測も行っている.これらの観測網は,従来の地震及び地盤変動観測機器が老朽化して,最新の研究成果を出すために必要な精度のデータが得られなくなったため,2003~2004年に一気に更新したものである.この更新以降,約15年の期間にわたり精度の高い地震及び地盤変動の観測データが着々と蓄積されている.更に,プロトン磁力計による全磁力の連続観測,能動的な比抵抗構造探査手法の一つである ACTIVE観測や長基線の電位差を計測するネットワークMT観測を実施している.これらの各観測のデータは,三原山山頂付近では無線 LANを通じて伊豆大島観測所にデータを集約し,その後インターネット回線を用いて当研究所まで伝送している.また,山麓の観測点の多くは回線を直接当研究所までインターネット回線でデータ転送を行っている.このように,各観測点の立地を考慮して効率的なデータ収集に努めている.

来るべき噴火活動に備えて,山頂火口周辺での広帯域地震観測網の増強,土壌火山ガス連続観測,空振観測網の整備も検討され,このうち,土壌火山ガス連続観測装置は2018年9月に三原山の火口近傍に,理学研究科火山化学研究施設と共同で設置した.また,広帯域地震計観測点1点を追加して設置する準備を行っている.さらに,マグマに先行して上昇してくる揮発性成分(火山ガス)を捉える新たな観測装置を設置する目的で,カルデラ内にある三原西観測点の深度1000m井戸の中の老朽化して故障している観測機器を引き上げて大深度の観測井の再利用を試みているが,途中でケーブルが引き上げられなくなり作業を中断している.

前回の噴火では,マグマに含まれる高温の揮発性成分がマグマに先行して地下浅部に上昇し,地中の温度上昇による熱消磁,電気伝導度の変化が噴火に前に起こり,その後,火山性微動が発生してその振幅が大きくなったのち,山頂噴火に至った.このようなマグマの粘性の低い火山においては,次回の噴火も同様な経過を辿る可能性が高い.現時点では,前回の噴火前に見られた上記の現象は観測されておらず,噴火が切迫している証拠は見つかっていない.しかし,10年余りの精度の高い地震及び地盤変動の観測データを併せて解析することにより,上記のような現象が発現する前段階と考えられる以下の現象が発生していることが明らかになってきた.

伊豆大島では,1~3年周期で山体の膨張と収縮が繰り返しつつも,長期的にはマグマ蓄積に起因する山体膨張が進んでいる.また,山頂直下及び山体から少し離れた島の沿岸部周辺で多数の火山性地震が発生している.この火山性地震の活動度とマグマ蓄積による地盤変動にきわめて良い相関があることがわかってきた.特に,カルデラ直下の浅部で発生する火山性地震は,山体膨張の際に活動度が高まり,山体収縮時に低下する.この現象は,山体膨張によって地下浅部では張力場が卓越し,地震を起こす断層面での法線応力が低下することにより,地震が発生しやすくなることを示している.観測された地震活動度は,地震研究で良く用いられるモデル(速度状態依存測)でうまく説明できることが明らかになった.伊豆大島はフィリピン海プレートの北端近くに位置し,相模トラフにも近いことから,大きなテクトニック応力が作用している.そのため,地震活動度と地殻変動との相関が現れやすいと考えられる.2011年以降は地盤変動の大きさと比較して地震活動度が高い状態が続いている.更に,2013年以降は,カルデラ直下の浅部で発生する地震の活動度が潮汐と統計学的に有意に相関を持つことが明らかになってきた.具体的には,震源域で潮汐応力が伸張場になる時に地震が相対的に多く発生することが明らかになった.これらの原因として考えられる仮説として,震源域での間隙圧の上昇により地震活動度が上昇したことが挙げられる.マグマの上昇に先行して,マグマ溜まりから揮発性成分が上昇し,それが震源域に達することにより間隙圧が増加すれば,地震活動は全体として相対的に活発になる.同時に,潮汐との相関が良くなることが同じモデルを用いて示される.更に,この時期に,地震の規模別頻度分布(G-R則のb値)も一時的に上昇したことが明らかになった.このような地震活動度の時間変化が,近い将来に全磁力観測による熱消磁や電気伝導度の変化としても現われ,最終的に噴火に至ることになれば,上記の仮説は証明できたことになる.つまり,火山噴火予測の重要な鍵であるにもかかわらず,これまでその検出方法がなかったマグマの揮発性成分の上昇が火山性地震の活動度から推定できる可能性があることを実証できると考えている.これは,火山性地震と言う最も重要な噴火前兆現象の科学的な理解の発展をもたらし,より科学的な火山噴火予測に一歩近づけるものに発展できると期待できる.

(3) 富士山

富士山では10点からなる常設の地震観測網を主体とした地震活動観測を行っている.この内 5点は地表設置型広帯域地震計, 3点はボアホール型広帯域地震計である.ボアホール観測点には3成分歪計,高感度温度計,傾斜計も設置されている.また全磁力観測も継続している.他の火山同様,富士山に於いても観測点の条件に応じて様々な伝送方式が用いられている.

富士山は,三宅島や伊豆大島に比べて噴火間隔が長く,1707年の宝永噴火以降,噴火していない.しかしながら,2000年10~12月及び2001年4~5月に深部低周波地震が多発し,火山活動の活発化が懸念された.深部低周波地震は,火山活動の活発化に先行して発生する例が多いが,その発生機構については未だ解明されていない.そのため,広帯域地震計を主体として,長周期振動を捉えることに重点を置いて観測を行っている.残念ながら,2001年以降,深部低周波地震の活発化は見られない.今後の発生と,その後の火山活動の変化を見据えて,観測を継続している.

(4) 霧島山

2011年1月に霧島・新燃岳が爆発的噴火を発生し,霧島山周辺の観測点が強化された.2017年10月には,再び新燃岳が噴火し,火山活動が活発な状態を維持して現在に至っている.地震研究所は新燃岳周辺を含む広域で地震観測,GNSS観測,全磁力観測,空振観測を行っている.これらの観測は,火山噴火予知研究センター・鹿児島大学などの他大学と協力して進めている.

GNSSによる観測から2011年1月の噴火に先立ち2009年12月頃から新燃岳南西数㎞,深さ約8㎞にあると推定されているマグマ溜まり(以下,深部マグマ溜まり)に徐々にマグマが蓄積したことが明らかになった.噴火時にマグマの噴出により一挙にマグマ溜まりが収縮し,その後は2011年10~11月頃までマグマの蓄積が続き,一旦停止した.これに呼応して,新燃岳の活動は一旦休止している.以下に述べるように,この深部マグマ溜まりの膨張は,霧島山全体の大局的な活動の重要な指標となっていることが明らかになってきた.

2013年8月から2014年10月まで,再度深部マグマが膨張し,その後,停止した.それに呼応するかのように,2014年8月以降えびの高原の硫黄山から韓国岳に掛けて地震活動が活発化し,火山性微動の発生とそれ同期する傾斜変動も観測された.これらは硫黄山付近での水蒸気噴火の発生する可能性を示すことから,震源決定精度向上のため,震源域のほぼ直上に当たる韓国岳山頂に広帯域地震観測点を新設して観測を開始した.その後,この地域の活動は一旦低下したが,2015年8月頃より,硫黄山周辺で傾斜変動を伴う火山性微動が度々発生するようになり,2016年1月には顕著な地表高温域の拡大,噴気の増大が見られるようになった.地元の山岳ガイドと協力し,噴気温度を測定する態勢を作り,測定を継続している.この活動は2017年9月以降,一旦は低下した.

2017年7月から深部マグマ溜まりが膨張を始め,火山活動の活発化が懸念されていたところ,10月11日に新燃岳で小規模な噴火が発生した.噴火に先立ち傾斜変動を伴う低周波の微動が観測されたほか,噴火中にBanded Tremor, Gliding Tremor, Chugging Event等色々な火山性微動が火口近傍の複数の広帯域地震観測点で観測された.この活動は約1ヶ月程度継続し,一旦活動が低下した.2018年3月1日から噴火活動が再開し,3月8日には爆発的な噴火に移行し,1週間程度活動が継続した.これも現在は小康状態になっている.さらに,硫黄山では,2018年1月頃から熱活動が再度活発になり,4月19日には小規模な水蒸気噴火となった.

このように霧島山では,深部マグマだまりの膨張が引き金になって,新燃岳,硫黄山の活動が活発になることが,10年余りの観測から明らかになった.深部マグマ溜まりの膨張は2018年8月に停止したが,12月から膨張しはじめ,現在も膨張が継続していろ.このことから,今後も新燃岳,硫黄山で噴火が発生する可能性がある.

このように,新燃岳の噴火と硫黄山の熱水活動や水蒸気噴火は,いずれも同じマグマ溜まりの膨張後に発生しており,共通の深部のマグマの供給システムで駆動されていると推定される.即ち,霧島山は多くの火口を有する山容が示すように複雑な火山システムであると考えられ,新燃岳の噴火及び硫黄山付近での熱水活動や水蒸気噴火は,一連の火山活動として捉えらる.このように霧島山は2つの噴火現象の推移の複雑さを理解する上で大変興味深い事例と言える.今後も観測を継続し,噴火活動の推移の理解につながる研究に発展させることを目指す必要がある.

(5) 三宅島

三宅島では,2000年噴火後は2010年頃まで山体収縮が続いていたが,それ以降山体膨張に転じた.これは,次の噴火に向けて,マグマ溜まりでのマグマの蓄積が再開したことを示している.また,2000年以前はそれほど地震活動が活発でなかったが,噴火後,大きく崩落した火口南側直下浅部を震源とする地震が非常に多く発生している.しかも,その活動度は時期により大きく変動していることが明らかになった.

2000年噴火直後と最近の地下の比抵抗構造の時間変化を研究するために,中腹の周回道路内側全域にわたって2012年にMT観測を実施した.これは,地下の温度変化,地下水の回復過程に着目して,今後の火山活動を評価し,その推移を解明するための基礎となるデータである.また,無人ヘリコプターにより,中腹の周回道路内側全域と火口周辺において空中磁気測定を2014年5月と2016年11月に実施した.その差から,火口直下では帯磁傾向が続いており,地下浅部では前回2000年噴火から地温の低下が継続していると推定される.今後も,定期的にこのような観測を繰り返し,時間推移を捉えることが重要である.さらに,2019年度には,再度MT観測を実施する計画を立てている.

三宅島では近年の噴火周期が20年程度であることから,次回の噴火がそれほど遠くないと思われる.噴火前後で発生する流体移動を捉えることが火山噴火現象の解明と噴火予測に重要であることから,他機関の観測点が少ない火口近傍に広帯域地震観測点を3点,GNSS観測点を2点設置して観測能力の向上をはかった.