3.4.4 史料分析等に基づく古地震・歴史地震の評価

(1) 史料分析に基づいた歴史地震の評価

 慶長十六年十月二十八日(1611年12月2日)に発生した慶長三陸地震について, 2011年東北地震の発生後,この地震が2011年東北地震のようなM9クラスの超巨大プレート間地震であったと一部の歴史研究者や津波研究者によって主張されている.しかしながら,地震発生時に江戸に滞在していた山科言緒と舩橋秀賢の日記『言緒卿記』,『慶長日件録』や,徳川家康の動向を記した『駿府記』を検討することにより,1611年慶長地震時の江戸では,2011年東北地震時のような現象(本震による震度5弱〜5強の長時間の強い揺れ,本震後の大地震を含む多数の余震や誘発地震による揺れ)がまったくみられないことを指摘した.さらに,1611年慶長地震の津波高さの推定結果,非常に高い津波高の報告値のいくつかが,信頼性の低い伝説・伝承や後世に編纂された文献にもとづいたものであり,その信憑性はほとんど無いと言える.したがって,1611年慶長地震がM9クラスの超巨大地震であったとする主張には無理があると結論した.

  (2) 地震直後に行われたアンケート調査資料の再検討による過去の地震の震度評価

 1943年鳥取地震(M7.2)から1988年東京都東部の地震(M5.8)までの55地震について,東京大学地震研究所の河角広,佐藤泰夫,茅野一郎らを中心に,震度,振動方向,地鳴りなどに関する通信アンケート調査が行われてきた.1946年南海地震(M8.0),1948年福井地震(M7.1)の発生直後に地震研究所により行われたアンケート調査資料(図3.4.4)を再検討した.震度が大きく被害が生じた地域だけでなく,被害に至らなかった地域についての地震随伴現象や体感などの記録に基づいて,広域の震度・強震動分布の特徴と被害の様相が詳細に示された.

 

[図 3.4.4] 1946年東南海地震・1948年福井地震のアンケート調査に用いられたはがき.