3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

地球上部マントルで観測される地震波速度異方性は,弾性異方性を持つかんらん石の結晶軸選択配向(CPO)が主要な原因と考えられている.一般的に,CPOは粒子回転を生む転位クリープによって発達すると説明される。最近,我々は,これまでCPOが発達しないと考えられてきた拡散クリープ下におけるCPOの発現を実験的に示した。この結果を元に、リソスフェアとアセノスフェアの粘性率構造をかんらん石多結晶体の拡散クリープ則から推定する試みを行っている。拡散クリープは、大きな粒径依存性を持ち、また、粒径は粒成長によって変化することから、クリープと粒成長のカップリングを解く必要がある。粒界の法線方向が圧縮軸に向いている粒界から垂直方向にある粒界に向けて原子が拡散することで変形が進行する。それに対して、多相系での粒成長は、第一相粒子の粒成長を阻害している第二相粒子のオストワルド成長に伴う比較的小さな第二相粒子の消滅によって生じる。第二相粒子の成長・消滅には第二相粒子間の距離に相当する原子拡散が必要であり、変形と粒成長は駆動力が外因か内因かで異なるものの、律速する拡散プロセスが共通となる可能性がある。その予想を元に、フォルステライト+20 vol%エンスタタイト二相系のクリープ速度と粒成長速度を様々な温度で測定し(Nakakoji et al. 2018 JGR)、両者の速度が共通の元素の拡散で決定されていることを示した(Nakakoji & Hiraga 2018 JGR)。クリープと粒成長のカップリングによって、クリープの見かけ活性化エネルギーが、クリープ自身の活性化エネルギーの1/4になる。この結果を海洋リソスフェアに適用したところ、海洋島周辺でのリソスフェアの変形から推定されてきた“弱い” リソスフェア(700˚Cで1022 Pa·s程度)および粘性率の“弱い”温度(深度)依存性(~100 kJ/mol)と整合的であることを示した。我々のモデルは、海洋島のような大きな荷重がリソスフェアに局所的に負荷されると、その下でせん断帯が形成され、そのせん断帯中では、温度(深度)に応じた粒径分布構造が作られる。その際、700˚C付近では、10ミクロン程度、1350 ˚Cでは、2 mmとなり、それぞれの粒径は、海洋底から採取されたマイロナイトおよびマントルゼノリスの粒径に対応する。したがって、リソスフェア底の温度(深度)で、マントル岩の粘性率はせん断帯およびその周囲で同程度になり、せん断帯はそれ以上の深さには伸展しない。これは、リソスフェアとアセノスフェアの変形様式とも整合する。