3.1.1 地震発生場の研究

(1-1) 津波のグリーン関数・梶浦フィルターの級数表現式の導出究

地震に伴う海底地殻変動は,海面変動を引き起こし,そこを源として津波が発生する.非圧縮非粘性流体を仮定し,一様の水深hのモデルを考える.海底面において上下変動が発生した時,瞬時に応答する海面における上下変動は,海底面デルタ関数入力に対する海面変動を表すグリーン関数G (無次元量)の畳込みで表される.Gは梶浦フィルター(Kajiura 1963)として広く津波研究において利用されている. 梶浦フィルターの積分表現は0次の第1種Bessel関数を含むので,実際の津波研究においては数値計算に便利な級数表現がもっぱら利用されている.通常の学術論文では計算過程を全て記述しないのが普通であるが,必ずしも多くの人が式の導出をできるわけではない.計算過程を解説することは有益と思い,ここでは積分表現から出発し,1/cosh(x)を指数関数で級数展開し項別積分を行い,級数表現式に至る導出の計算過程を全て示した.

(1-2) 地震の即時重力変化の研究

重力場変動は光速で伝搬するため, 従来の地震波検知を用いた地震計ネットワークによる地震アラートシステムと比較して10秒以上早く,地震発生を検知することが可能になる.これは,人々の避難などの安全面だけでなく,発電所・工場・データセンタの退避状態への移行といった社会的インフラストラクチャの甚大な被害を回避するために貴重な時間となる.我々は,地震発生後「即時」に生じる重力変化の検出を目指して,先行する二つの研究結果と直接比較可能な形で2011年M9東北地震の重力計・地震計・傾斜計の「加速度記録」の再解析を行っている.

(1-3) 地震活動のフォワードモデル

「即時地震重力変化」の検出に挑戦し,観測データの解析と理論モデル構築の両方を行った.データ解析では,意に反して「既存理論モデルから予測される重力信号がデータ中に同定できない」結果となったが,それを説明する新たな観測モデル(無限媒質中では即時重力と慣性力が完全キャンセルしセンサー出力がゼロになる)を提案した.これを定量的に評価した所,非常に説得力のある結果を得た.重力観測に基づく検出の限界を明確に示し,これを受け重力歪み計による検出の方向性を示した.

(1-4) 地震活動のフォワードモデル

大地震発生前に震源域周辺の地震活動がしばしば変化することはよく知られているが,大地震は低頻度なので,このような現象を定量的経験則として確立することは容易ではない.地質学的構造に起因する地震の「個性」も問題を困難にする一因である.このような困難を解決するために,地震活動を決定する物理過程を解明することにより,地震活動のフォワードモデルを確立することを目指している.将来的には地震活動のインバージョンによって地震発生場の力学状態の情報が抜き出せるようになるべきである.このような問題意識に基づき,地震活動の背後にある物理過程に関する研究を行っている.例えば,余震のカスケード過程を平均場近似することによって大森則を導出し,指数とc値の定量的表現を与えることができるが,その背後ではサドルノード分岐が本質的役割を果たしていることを解明した.カスケード相互作用系が局所的になるとダイナミクスはより不安定になり,大森則的なベキ則から指数関数的な挙動に移りかわる.その一方,局所破壊基準に確率的な規則を採用すると,確率強度のパラメタに依存して大森則の指数が連続的に変化することも発見した.