3.5.11 スロー地震学プロジェクト:スロー地震発生領域周辺の地震学的・電磁気学的構造の解明

 近年明らかとなった断層すべりの多様性は,プレート境界面摩擦特性の不均質性に起因し,境界面の形状,そこに存在する物質の物理的性質や水の分布などの構造・環境的要因を反映していると考えられる.本研究では,多様な断層すべりが連動して発生する豊後水道周辺域を主な対象領域として,地震学的・電磁気学的な手法を総動員し,プレート境界周辺構造の包括的な理解,さらには断層すべりの発生に伴う構造内の変化を捉えることに挑戦する.本プロジェクト内で実施される観測によって求められた詳細なスロー地震発生領域と,本研究課題で得られた構造およびその変化との対比,さらにはプレート境界物質の物性に関する地質学的情報とあわせ,スロー地震の発生環境の把握を目指している.また,ニュージーランド・ヒクランギ沈み込み帯をはじめとする他の沈み込み帯との比較による共通点・相違点の構造的要因を解明し,断層すべりの統一的理解に基づく物理モデル構築を目指すための研究を行っている.

 既存の地震観測網の記録から,南海トラフに沿う領域における地震波不均質構造の空間変化を明らかにした.その結果,深部低周波地震が発生している領域ではプレート境界の上部の岩石が平均的な地震波速度を示す一方で,深部低周波地震が発生していない場所ではプレート境界の上部の岩石の地震波速度が平均よりも遅いことが明らかとなった.

 豊後水道周辺域におけるスロー地震の発生に伴う電磁気的シグナルの有無の検証,および比抵抗構造から多種多様な断層すべりと地下流体の分布との相関を明らかにすることを目的として,陸域における長基線地電位差観測からなるネットワークMT法観測網を整備し,観測を継続した.また,2017年3月から海域での海底電磁場計による海底MT観測を開始した.このうち,陸域のデータの解析をすすめ,20秒程度から数万秒にわたる長周期で良好な応答関数が推定できることを確かめた上で,2016年4-5月に決定した応答関数を用いた3次元比抵抗構造解析を実施した.この時期は,2015年12月から2016年3月にかけて豊後水道域で発生した小規模な長期的スロースリップイヴェントの直後にあたり,そのすべり量分布と構造との関連性を検討している.

 2019年度には四国西部の陸域で,また2020年度には豊後水道沖で人工震源を用いた地震波速度構造調査を実施する予定である.微動活動からスロースリップまで,多様な地震活動が見られる豊後水道周辺域の構造について,その発生環境を明らかにすることを目的として,それぞれの調査において最善となる測線の策定を進めているところである.