3.12.7 古い地震・津波の研究

(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究

地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.東北地方太平洋沖や日本海東縁部で20世紀に発生した大地震について地震・津波波形記録を用いて断層パラメータの検証を行った.また,1944年東南海地震と1945年三河地震に対して,地震後に東京帝国大学が行ったアンケート調査の資料から,震度分布の検討を行った.最近の地震観測網による地震学データとの比較に基づき古い地震の震源・メカニズムを決定する新たな手法を構築し,明治・大正期の大地震に適用した.

(2) 史料に基づく古地震・津波の研究

2017年度から地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.これらの史料・データベースに基づいた歴史地震の研究を行っている.また,歴史地震の震源域を有感地震の時空間分布から制約できる可能性を,気象庁震度データベースを用いることで示した.

1855年安政江戸地震に関して,関東地域で新たな史料調査を行い,神奈川宿についての詳細な被害分布を明らかにした.また,全国スケールでの震度分布を推定した.再検討した震度分布と三次元減衰構造を考慮した震度計算との比較から,この地震は地殻内地震・太平洋プレート上面・太平洋プレート内部で発生した可能性は低く,フィリピン海プレートに関連する地震であった可能性が高いことを明らかにした.

(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究

三陸沿岸宮古市において津波堆積物の調査を行い,浜堤背後の湿地で過去2000年間に発生した17層のイベント堆積物を発見した(図3.12.7).2011年東北地方太平洋沖地震の津波堆積物の特徴を考慮して,これらのイベント堆積物の起源を推定した.福島県南相馬市でも2011年及び過去に発生した津波堆積物を調査し,粒度分析・化学成分分析・年代測定などを行って,これらの起源を検討している.また,これらの津波堆積物データに対して津波による土砂移動モデルを適用し,2011年東北地方太平洋沖地震・869年貞観地震の震源モデルの検討を行った.さらに,7300年前に東シナ海で発生した鬼界アカホヤ噴火に伴う津波の規模と発生メカニズムを推定するため,地質データの解析に加えてカルデラ崩壊と火砕流の流入による津波シミュレーションを行った.

琉球海溝沿いの宮古島(2か所),伊良部島(1か所),石垣島(2か所),西表島(3か所),波照間島(1か所)で,サンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動を復元するため,試料の採取を行った.