3.6.1 浅間山

(1) 長周期パルス(VLP)・火山ガス噴出と火道浅部構造の解明

 浅間山の火山ガス観測は,2009年より東京大学大学院理学系研究科,産業技術総合研究所地質調査総合センターと共同で進めている.山頂部における稠密広帯域地震観測データに基づいて,2004年噴火以前から発生する長周期パルス(VLP)が,火口北側の浅部に位置する傾斜したクラックと管への急激なガス流入と緩慢な放出により発生していることを明らかにした.さらに,火山ガス観測データとVLP活動を比較することにより,地震活動と火山ガス放出に関する定量的な関係を求め,その関係を用いて2009年微噴火前後の脱ガス機構が変化した可能性を明らかにした.2008年秋から浅間山東麓に2009年秋からは北麓にリアルタイムの宇宙線ミューオン観測点を設置し観測を開始した結果,浅間山の火口底浅部の密度分布をとらえることに成功した.この密度分布から,VLPの震源付近から火口底直下までは低密度領域が拡がっていることが明らかになり,VLPの緩慢なガス放出が空隙率の大きいと推定される低密度領域の存在に起因していることが判明した.一方,浅間の山頂付近では2004年から多成分ガス観測が行われており2010年以降は山頂観測点に設置した機器による自動観測も実施している.2004年から2014年までのガス多成分観測の結果,脱ガス深度が噴火に伴って大きく変化することはないことがわかり,火道内マグマ対流により脱ガスが起きていることが示唆された.また,ガス成分比の解析から,マグマ対流による流量変化は火道径の変化により生じていると推定された.さらに,2008年から2009年及び2015年に発生したVLPについて,高周波成分と低周波成分に分離してその震動源を精査した結果,VLPは深部からの急激なガス流入により励起されている可能性を示した.

(2) 噴火に先行する火山ガス噴出様式の変化

 2015年6月にごく小規模な噴火が発生したが,その直前に急激なVLP活動の活発化とSO2の急増が観測された.そこで,火口近傍に広帯域地震計が設置された2003年10月以降について,噴火とVLP活動,微動・N型地震の活動,火山ガス噴出量の関係を精査した.その結果,2004年9月1日及び2009年2月2日の噴火では,噴火に先行してVLP活動の低下が見られるのに対し,2008年8月と2015年6月の噴火ではVLP活動の活発化とSO2噴出量の増加が観測されている.これらの噴火に先行する火山ガス噴出様式の違いは,微動・N型地震活動の変化と考え合わせると,前者は噴火に先行して火道の閉塞が進行したのに対し,後者は大規模なガス噴出イベントといえる噴火活動であったことで理解できる.2017年1月にもSO2の増加が観測されているが,2015年6月に匹敵するようなVLP活動の活発化は見られていない.2009年秋から観測を開始した釜山南の全磁力は,2013年半ばから永年変化のトレンドとずれ始め,2015年6月までの2年間で-10nTの全磁力変化が起こった.この全磁力変化は2015年6月の小規模噴火後,また元の永年変化のトレンドに戻って現在に至っている.この全磁力の変化の開始時期は N型地震が頻発し始める時期と一致し,永年変化のトレンドからずれている時期とN型地震の発生時期が良く対応している.釜山南の-10nTの全磁力変化は,釜山火口直下の帯磁状態の変化を示していると考えられ,火口底直下深さ300m〜800mの一辺200mの領域が消磁すれば,観測結果が説明できる.全磁力の永年トレンドが火口底直下での冷却による帯磁によって生じていたのであれば,この2年間の全磁力変化は,一旦,冷却が停滞するような事があったと考えることも出来る.この観測を説明する消磁域はN型地震の発生域とも対応している.2013年半ば以降,浅間山の火道浅部は徐々に閉塞状態が進行し,深部からの高温の火山ガスの放出が停滞して釜山火口直下では温度の上昇もしくは冷却の停滞が起こっていたと見られる.2015年6月の大規模なガス噴出イベント(小規模噴火)により,火道浅部では閉塞状態が解消し,火山ガス放出量が増大し,VLP活動の活発化や火映が見られるようになったと考えられる.それに併せて全磁力変化も元の永年変化のトレンドに戻ったと考えられる.

(3) 浅間山の電磁気探査

 地震波速度構造によって浅間西域に低速度異常が見つかったことをうけ,その異常域の検証および解明を目的として,同領域において比抵抗探査を実施した.2018年度に浅間山西方4km~15kmの範囲にかけて,6月に9点,9月に10点の計19点においてそれぞれおよそ3週間,MT臨時観測点を設置し電磁場計測をおこなった.
 初期解析の結果では,ごく表層は数百Ωmの高比抵抗であるが,深さ1~数kmにおよそ数十Ωmの低比抵抗層が水平方向に10km程度の広がりを持っていることがわかった.その低比抵抗層分布は,浅間の北西8~9kmの領域(鹿沢)では深さ2-3km,西10km の領域(湯ノ丸・烏帽子)では深さ1kmで,厚さはいずれも1km程度であると見積もられる.低比抵抗層以深は再び100Ωm程度の高比抵抗に転じている.この広域低比抵抗層と現在の浅間山の関係については今後解析を進めていくが,浅間山の噴火口が古くは烏帽子山,その後,黒斑山,浅間山と西から東に遷移していることから,元のマグマ溜りは現在の浅間山より西側に位置していることが示唆される.

 浅間山の火山活動モニタリングの一環として全磁力連続観測を実施している.地殻活動による磁場変化は,力学的変化,化学的変化など複数の要因があるが,火山地域では,熱的変化(熱消磁,冷却帯磁)がその大きな要因であり,磁場変化を検出することで,地下の温度変化をモニタリングすることができる.当センターでは,浅間山山頂域の北側および南側に1点ずつ,東山麓に1点の計3点で連続観測を行っている.2015年の微噴火に先行すること2年ほど前より消磁傾向を捉えることに成功した.その後は現在にいたるまで,山頂域の両点とも帯磁傾向になっており,その帯磁速度は一定を保っているため,全磁力観測からは火山活動に特段の消長は見られていない.

(4) マグマ供給系の解明

 浅間山における地震活動と活動期における地殻変動観測から,活動期には山頂西側数kmの海面下1 km付近にまで板状マグマ(ダイク)が貫入することが明らかになった.地下構造がそのマグマ輸送経路に与える影響を評価するために,人工地震および雑微動を用いた地下構造探査を行った.その結果,現在の活動にともなう西側へのダイク貫入は,過去にも繰り返し発生し地震波高速度領域を作ってきたこと,浅部では過去の活動にともない固化したマグマによって現在のマグマ輸送経路が規定されていること,山頂西側約8 kmの海面下5-10 km付近にマグマ溜まりが存在することが明らかになった[図3.6.1].