3.6.5 そのほかの研究活動

(1) 火山の空振モニタリング手法の開発

 火山噴火に伴う空振の波形や振幅を正確に計測するため,新しい空振計を開発している企業や大気振動の研究者らと協力し,小型・低消費電力マイクロフォンやMEMSセンサー,高精度気圧計の比較試験および火山地域における長期評価試験を行い,必要な改良を進めた.また,2015年にフィレンツェ大学と共同で行った,桜島火山近傍での長期空振アレイ観測データを解析し,アレイ観測でしか捉える事の出来ない噴火と噴火の間の微弱な空振活動の有無や推移を明らかにした.より効率のよい空振アレイ観測の方法として,従来のアレイ観測よりも一桁空間スケールの小さい,10メートルサイズの3要素アレイの開発を行い,10度以下の精度で音源方向が推定できることを示した.空振計が1台しか設置されていない状況で発生した2015年箱根山大涌谷噴火に対し,地震―空振相関法を用いてデータから信号を抽出し,浅部の膨張と同時に空振を伴う表面現象が開始したことを示した.

(2) 無人ヘリやドローンを活用した火口近傍観測システムの開発と観測への応用

 活動的な火山において,観測者を危険にさらすことなく火口周辺での様々な観測を実施することを目的として,無人ヘリ火口近傍観測システムの開発を進めた.汎用の無線ラジコンヘリを火山観測に利用するため,様々な火山での飛行実績を積むとともに,観測に必要な様々な周辺機器,静止画・動画撮影用の機器を搭載するための専用雲台,地震計やGPS観測装置をヘリから降下設置するウインチ,無人ヘリ設置用の地震計モジュール,GPSモジュールなどを開発した.口之永良部島では2014年の噴火で被災した山頂付近の観測点の代替とすべく,2015年4月に火口近傍の4箇所に地震計を設置した.この地震計は2015年5月の噴火で失われたが,2015年9月に再度5点を設置した.観測データから2015年5月29日の噴火に先行して火口近傍で地震が急増していたこと,単色地震も増加していたことがわかった.また,可視画像・熱映像・電磁気・ガス等の多項目データから,活動の大きな変化を捉えることができた.火口に接近して得られたガスの分析により脱ガス時の見かけ平衡温度を推定した.2016年6月には,火口から1.5 km内が警戒範囲となっている西之島において,気象庁と共同で無人ヘリ(船上より離発着および制御)により活動・噴出物の観察および岩石試料の採取を行い,2017年度にかけて解析を進めている.2017年10月には,桜島山頂付近に地震計およびGPS受信機を設置した.

 無人ヘリコプターによる空中磁気測量も精力的に行っている.2011年霧島新燃岳噴火後の山体の帯磁状態の変化を把握するため,2011年5月,11月,2013年11月,2014年10月,2015年11月,2017年11月,2018年11月の計7回,新燃岳およびその西側,およそ3㎞四方の領域において,繰り返し空中磁気測量を実施した.測線間隔および対地高度はおおよそ100mで一定として測定フライトを実施した.このようにプログラムした航路を精確に測定飛行できることは繰り返し測量にとって大きな利点である.解析の結果,新燃岳火口内の溶岩は平均として4.0 A/m帯磁したと想定すると観測された全磁力データをよく説明することが判り,火口に蓄積された溶岩が熱拡散過程で順調に冷却している様子を明確にとらえることに成功した.また,三宅島においては,今後の火山活動を把握するための基礎資料とするために無人ヘリを用いた詳細な空中磁気測量を2014年5月と2016年11月に実施し,2017年度に解析を進めた結果,山体北側で負,南側で正の変化を検出した.2018年1月に噴火した,草津本白根山においても無人ヘリによる空中磁気測量を実施し,過去有人機により得られたデータとの比較解析を進めつつある.

 電動モーターを動力源とするいわゆる「ドローン」の性能が近年大幅に向上し,火山観測において活用できるレベルに達しつつある.火山センターではドローンを活用した火山観測も進めつつある.新燃岳においては,ドローンによる火口内への接近撮影を実施し,西之島においては船上から飛ばしたドローンによる画像撮影と試料採取を実施した.ドローンを空中磁気測量に活用するため実験も開始した.

(3) 噴火のダイナミクスの解明を目指した実験と理論研究

 爆発的な噴火の重要な素過程であるマグマ破砕のメカニズムを明らかにするため,マグマを模擬する発泡水あめに急減圧を与えて破砕を引き起こす実験を行ってきた.これまでの実験結果から,大きな気泡の近くに小気泡が存在する場合,減圧を受けた際に応力が集中して流動し,そこから破砕が発生するということが明らかになった.そこで,マグマ破砕過程を,「粘弾性流体の破壊現象」と位置づけ,定量的モデル化に向けた粘弾性構成方程式の構築と数値計算手法の開発を進めた.また,カルデラ噴火の際に噴出する発泡マグマに特有な構造として知られている,一様に伸長した気泡構造の成因と噴火ダイナミクスを明らかにするため,ポリウレタンフォームを模擬物質として用いた変形・硬化実験を行い,同様の構造を再現することに成功した.同時に,気泡変形計算プログラムを作成し,気泡の変形度と流動履歴の関係を定量的に解析することが可能になった.一方,マグマ混合・発泡・膨張・噴出,という一連の噴火過程を表現し,各種の模擬観測によるモニタリングも可能とする噴火実験装置を開発し,教育・普及活動に活用した.さらに,この実験で見られる振動現象の物理を追求することにより,噴火の周期性の乱れを引き起こす要因について,新たな示唆が得られた.

(4) 衛星技術を活用した火山活動の把握

 2009年よりJAXAと共同でGCOM-C衛星のSGLI画像を利用したリアルタイム火山観測システムの開発に取り組んでいる.SGLIは分解能が250mと比較的高く,溶岩流の拡大や火砕流の発生等,噴火状況の変化を高頻度で捉えることができる.このSGLI画像により2018年に起きたハワイ島,キラウエア火山の噴火解析を行い,溶岩流拡大状況の時間変化や噴火初期の割れ目火口等捉えることができることを確認した.また,2014年に打上げられたひまわり8号画像を用いたリアルタイム火山観測システムの改良と試験運用を進めている.ひまわり8号の赤外バンドは,分解能2㎞であるが全球の観測頻度が10分毎と,極めて時間分解能の高い熱異常観測を行うことができる.このひまわり8号のデータにより,西之島2017年噴火(2期;西之島の項で記述)やインドネシア・ラウン火山2015年噴火等の解析を行った.この内,ラウン火山の噴火では,溶岩流噴出ステージが2つに分かれること,短時間スケール(日)で見ると噴出率は基本的にほぼ一定であることが判った.これは噴出的噴火の一つの特徴と考えられた.また,噴火の開始や再活発化に先行して,前兆的な熱異常が発生していることがわかった.他方,ひまわり8号の1.6 µm,2.3 µm バンドの夜間画像において,春分および秋分期を中心とする約6ヶ月間,特異な熱異常が広範に現れ,火山熱異常観測の大きな妨げになることを見出した.ひまわり8号データの年および日変化の検討から,この熱異常は太陽迷光の影響による見かけの熱異常であることを明らかにすると共に,補正方法の検討を行った.考案した補正方法により,年間を通じて1.6 µm,2.3 µm バンドを火山の熱異常観測に利用することが可能となった.

(5) 西之島における噴火活動の把握

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃までに噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した(1期).その後活動が一旦低下し,2016年10月には上陸調査を実施する機会を得た.しかし,2017年4月(2期)および2018年7月(3期)に活動が再度活発化し,溶岩流が噴出した.火山センターでは関係者と協力しつつ,地質学と地球物理学の両面から火山島成長のプロセスを明らかにしつつある.

遠隔調査: 2013年11月の再噴火以降,西之島の火山島成長のプロセスを衛星画像に基づいて把握し,溶岩噴出率の推移等を明らかにしている. 2016年6月の観測では気象庁の啓風丸に乗船し,火口から1.5㎞の範囲に設定された規制区域の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる島内の撮影を行い,溶岩流の形態的特徴を詳細に捉えるとともに,島内中央付近に成長したスコリア丘の内部及び表面に発達した亀裂構造を観察した.加えて,スコリア丘の麓において溶岩組成分析を目的としたスコリアのサンプリングを実施した.また, 2期活動の噴出物調査のため,2018年気象庁の凌風丸に乗船し,ドローンによる地形観測,試料採取等を行った.さらに,他の部門・センターとの共同で,西之島周辺海域に海底地震計を設置して,噴火活動に伴う振動を連続的に観測することに成功し,2015年から2017年にかけての西之島の噴火活動の推移を連続的に把握した.一方で,2期の活動推移を明らかにするために,ひまわり8号赤外画像と,ランドサットOLI,プレアデス,ALOS-2画像等の高分解能画像を用いた組合せ解析を行った.この結果,2期の活動は2017年4月中旬から8月上旬まで続き,陸上および海面下を併せた2期の総噴出量は 1.6 x 107 m3 ,平均噴出率は 1.6 x 105 m3/dayと推定され,当該期の平均噴出率は第1期と同程度かやや低いことが明らかになった.詳しい時間変化について見ると,噴出率は初期に高く全体として時間と共に低下傾向を示すが,活動中頃(6月上旬)に一時的に高まるステージをもつことがわかった.

 西之島から130km離れた父島に設置した空振計と気象庁の地震計のデータを用い,相互相関解析から,西之島の噴火に伴う空振活動の把握を行った.また,波の力だけを用いて海上を移動する無人ボート,ウェーブグライダーを用いた海上インフラサウンド計測システムを開発し,実用試験を行った.父島近海から放流し,西之島まで航行,西之島を中心とする半径5kmの周回軌道を5周して父島近海に帰還するまでの10日間,空振および水中ハイドロフォンのデータを収録し,一部を衛星通信によって送信を続けた.試験の結果,システムが実用レベルに到達したことを確認した.

上陸調査: 2015年秋以降の活動低下を受けて,2016年10月16日から25日にかけて西之島の火山活動と生物相の調査を実施した.本調査では,生態系は世界自然遺産に指定されている西之島への外来種持ち込みのリスクを最小限に抑えるために,地球科学と生態系の研究者が相互に協力して上陸調査を実施した.調査内容は,西之島に上陸しての地質調査および火山噴出物の採取,地震・空振観測点の設置,噴火後の海鳥営巣状況の把握と,西之島周辺海域での海底地震計,海底電位磁力計の設置・回収とウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験であり,予定した調査をほぼ計画通りに実施できた.2016年10月の上陸調査の際に設置した島内の地震・空振観測点は,噴火開始1日前から火道内部のマグマ上昇を示すと考えられる低周波地震や傾斜変動を捉えることに成功した.上陸調査では西海岸に上陸して,2014年3月から2015年11月頃までに噴出した溶岩・噴石及び旧島の溶岩を採取した.これらの噴出物について,XRFによる全岩化学組成分析を行った結果,全ての試料についてSiO2含有量59.5-59.9wt%の安山岩組成であり,1973-1974年噴出物と旧島溶岩との中間的な組成であること,及び今回の溶岩は化学組成が狭い範囲に集中し,時間経過とともSiO2含有量がやや低下した可能性があることがわかった[図3.6.5].さらに,2018年7月に小規模な再噴火と溶岩流の流出が発生したが,9月の調査でドローンを使用した地形調査及び噴出物の回収などを実施し,新たな溶岩流の詳細な情報を入手した.なお,この調査は気象庁海洋気象観測船「凌風丸」の協力の下,気象研究所との共同研究として実施された.

(6) 海外の火山における噴火活動の研究

 2010年に有史初めての噴火を開始したインドネシアのシナブン火山において,SATREPSプロジェクト(インドネシアにおける地震火山の総防災策)として,インドネシア・火山地質災害軽減センターと共同で現地調査を実施し,地質図を作るとともに,将来の噴火に備えたイベントツリーを作成した.また,2013年からは,ケルート,メラピを含む活動的6火山を対象に,火山地質災害軽減センターと共同研究を新たなSATREPSプロジェクト(火山噴出物の放出に伴う災害の軽減に関する総合研究)として開始した.その間,インドネシアで進行中の火山噴火についての活動評価を分担している.2013年に活発化したシナブン火山において,溶岩流/ドームの成長をレーザー距離計による計測や衛星写真からの図化により地形変化を解析し,噴出率が時間とともに指数関数的に減衰したことを明らかにした.また,火山灰や火砕流堆積物中の溶岩試料の化学分析を継続して実施し,マグマ組成がほとんど変化せず,噴出率の低下により結晶度が増していることを示した.2015年からは噴出率が低下しているにもかかわらずブルカノ式噴火が繰り返して起こり2年以上継続した.これは山頂が地形的に不安定のために溶岩ドームが崩れ続けて大きくなれず,火口上の溶岩の荷重圧を稼ぐことができずに,ダラダラと溶岩供給が続き,火道上部では,マグマからの脱ガスが不完全なために爆発が継続していると解釈した.2014年2月13日にプリニー式噴火を起こしたケルート火山において現地調査を実施し,噴出量や噴火の推移を明らかにした.そこでは,プリニー式噴火に先行して,先の噴火でできた溶岩ドームを噴き飛ばす爆発的な噴火によって火砕サージが発生したこと,プリニー式噴火の噴煙柱が崩壊して火砕流が火口から周囲に発生したことなどを明らかにした.

 1980年代に災害を伴う噴火を発生したコロンビア共和国のネバドデルルイス火山およびガレラス火山を対象とする,SATREPSプロジェクト(コロンビアにおける地震・津波・火山災害の軽減技術に関する研究開発)の一環として,火山の表面活動を監視するシステムの開発を分担している.対象の2火山を含む,中南米地域の活動的な火山の熱活動を,衛星赤外画像から監視するシステムを開発し,現在活動を続けているネバドデルルイス火山における熱異常を捉えると共に,この地域での雲活動の変化のデータへの影響を評価した.また,ネバドデルルイス火山に新たに整備した空振観測網のデータを用いて,微弱な噴火に伴う空振の自動検出を試み,目視等による噴火検出を補助する情報として有用であることを示した.

(7) 大規模噴火に関する研究

 南九州鬼界カルデラにおける7.3 ka噴火(アカホヤ噴火)およびその前後の活動履歴を明らかにするための地質学的・物質科学的解析を行った.アカホヤ噴火のステージ1(プリニー式噴火)とステージ2(大規模火砕流)の間に存在する時間間隙を示唆する地質痕跡の調査,解析を進めるとともに,ステージ1末期の堆積物について,溶結構造や構成物データと,溶結現象の理論モデルを用いて,高温で定置した堆積物が自重により変形し,十分冷却して層厚や堆積構造(溶結度)が決まるまでのプロセスを推定する手法を開発した.さらに,モデルをステージ1-2間の時間スケール推定に応用した.一方,ステージ2堆積物については,礫質及び軽石質堆積物の互層からなる複数の堆積ユニットに区分でき,最上位の軽石質層が最も厚いことがわかった.このことから,クライマックスでは単に1回の大規模火砕流が発生したわけではなく,段階的に火道の形成・拡大が進行し,その中で最大のものが鹿児島本土など遠方まで到達したと考えられる.さらに,薩摩硫黄島西部カルデラ壁付近において北大と共同で実施したボーリング掘削(H27-28年度)の解析を進めた結果,アカホヤ噴火以降にこれまで知られていなかった玄武岩および安山岩マグマの活動があったことがわかった.とくに一部の溶岩は高MgO値のBoninite質であり,カルデラ形成以降のマグマ進化を解明する上で重要な成果が得られた.