1. はじめに

 本年報では,東京大学地震研究所の2018年度における研究・教育活動の全般について報告します.
 2018 年度は,国立大学法人東京大学の第3期中期計画,及び地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点としての第2期認定期間が開始して3年目という中間の年に当たり,それらの計画に従って順調に研究活動を行ってまいりました.前者に関しては, 2015年度に就任した五神総長のもとで「東京大学ビジョン2020」が策定され,「知の協創の世界拠点」としての使命に向け,東京大学で展開されている学問の多様性と卓越性を十分に活用する方向性が示されました.その一環として,既存の組織の枠を超えた学の融合による新たな学問分野の創造を促進するため,複数の部局等が一定期間連携して研究を行う組織(連携研究機構)の設置を可能とする制度が2016年度から開始され,地震研究所は他の部局との連携による新たな知の協創について積極的に取組んでいます.まず2017年4月には,近代日本史史料に関する蒐集・研究・編纂を設置目的とする東京大学史料編纂所との協働による「地震火山史料連携研究機構」を設置し,本学における新たな文理融合研究拠点の構築を進めました.その活動実績は2018年度に発行された東京大学統合報告書でも大きく取り上げられたところです.また,2018年9月1日は工学系研究科,理学系研究科,医学部附属病院との連携に基づき「国際ミュオグラフィ連携研究機構」を設置し,新たな投資技術開発とベンチャー創出を通して高エネルギー素粒子ミュオンの利用可能性を図るとともに,2019年2月には宇宙線研究所が責任部局である「次世代ニュートリノ科学連携研究機構」に参加し,ハイパーカミオカンデプロジェクトの実施に向けた体制強化に貢献します.
 後者については,第1期認定期間に引き続き地震・火山科学の拠点として国内の研究コミュニティにおける研究活動を推進するとともに,国際性や他の研究分野との連携を進めることで更に拠点としての位置づけを強化することが求められています.2018年度に実施された国立大学共同利用・共同研究拠点中間評価では,地震研究所はA評価をいただき,国内外の研究コミュニティの研究活動推進に向けた取組が高く評価されました.地震研究所における共同利用の中でも特に重要な全国連携研究プロジェクトとして位置づけられている「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」は2018年度で5カ年計画の最終年度となり,その取りまとめとしての研究成果が本年報の随所に記載されているとともに,2019年1月に第2次となる新計画が建議され,2019年4月からは新たな5カ年計画が始まり,今後の研究の進展が大いに期待されるところです.
 ところで,本年報に掲載されている所内研究者の研究活動は実に多様であり,固体地球を研究対象とする研究機関としては世界的にも随一の多様性と卓越性を有していると言っても過言ではないでしょう.これらの研究活動は,運営費交付金が年々削減される状況のなかで,共同利用・共同研究拠点としての共同研究経費や,それ以上に,各教員の豊かな発想と努力のもとに獲得した科学研究費や委託研究などの外部資金によって実施されています.一方,これらの研究活動は,技術職員による膨大な調査・観測・実験等に関する支援業務によって支えられており,各技術職員の活動内容についても本年報に記載されています.
 前述の東京大学ビジョン2020には,附置研究所の教育機能の活用も求められていますが,地震研究所の教員は理学系・工学系・情報理工学系研究科の大学院教育を担当するだけでなく,学部・教養学部教育への協力や出講,留学生やインターンシップ研修生の受入や国際サマースクールなどの教育活動も積極的に行なっています.地震研究所における教育の特色は,学生に対して実験や観測といった臨場感あふれる先端的研究の最前線に触れる機会を提供することであり,人材育成の面においても重要な機能を果していると言えます

東京大学地震研究所長 小原一成