カテゴリー別アーカイブ: 部門・センターの研究活動

Fig.3

図3.8.3 跡津川のボアホールに設置した検出器(左),ボアホールを中心とした周囲の地形(中),深さ50mにおける方位ごとのミューオン到来数の比の測定値と,断層の影響を考慮しない場合のシミュレーションによる期待値の比較(右)

FIG2

図3.8.2 2017年1-7月と2018年1-6月の観測で得られた画像の比較.黒点線で囲んだ部分が有意に変化した部分,赤線は昭和火口と南岳中央火口の一部を示す.

3.4.8 IT 強震計の開発

IT強震計は,最近のIT技術を利用して,従来の強震計より高密度な観測を可能にすることを目的として開発された.震度0~1程度の地震動から観測可能で,身近な場所の日頃の弱い揺れを観測して地域の地盤や建物の特徴を探り効果的な防災対策にも活用可能である.そこで,地震研究所では, IT 強震計のプロトタイプを開発し,地震研究所の各建物内に設置し,弱い地震時の記録から,それぞれの建物の揺れの特徴をとらえたり,耐震補強前後の振動特性の変化をとらえたり,東北地方太平洋沖地震の前後の建物剛性の変化をとらえることなどに成功している.2009年度より情報学環総合防災情報研究センターと共同で学内の建物にも設置を開始し,2011年より以下のホームページ(学内限定)IT強震計東大プロジェクトにおいて有感地震時の観測データを公開して利用可能にしている.またIT強震計の産学連携共同研究組織「 IT強震計コンソーシアム(代表は,2015年9月から災害部門の楠浩一教授)」の運営サポートも行った.

3.6.4 霧島山

(1) 噴火に関連する微動活動と地殻変動

 新燃岳2011年噴火に先行する火山性微動の長期活動について,解析を行った.人工ノイズの小さい夜間のデータだけを用い,これまで見逃されていた微弱な振動を抽出した.その結果,2008年8月の水蒸気爆発以降の約8か月間,微弱な微動がほぼ同じレベルで継続していたこと,2010年10月以降2011年噴火に向けては,顕著に振幅の増加が進んだことが明らかになった.振幅の空間分布から,この微動は新燃岳直下の数km以浅にあると考えられ,噴火前の長期的なマグマ移動に伴う振動であると解釈している.長期的な微弱な微動は,2017年から2018年の噴火の際にも検出され,今後詳細な解析を進める必要がある.また,2011年噴火の主噴火発生後の調和型微動について,非線形振動系を示唆する特徴を抽出し,流体の流れが励起する振動であることを提示した.

(2) 地殻変動観測とマグマ蓄積過程

 2011年1月26日に爆発的噴火を行った霧島新燃岳の噴火前後の地殻変動を稠密なGPS観測網で捉え,噴火前の山体膨張時の圧力源,噴火時の減圧源,噴火後の再膨張時の圧力源の位置を,誤差も含めて推定した.この噴火に関与するマグマ溜りは新燃岳北西約8km,深さ約8kmで,2009年12月からほぼ同じ蓄積率でマグマが蓄積され,噴火直前には21×106m3に達した.噴火時には,その蓄積量の約65%の13×106m3のマグマがマグマ溜まりから排出された.噴火後もほぼ同じ蓄積率で再蓄積し,噴火前の90%まで蓄積した時に再蓄積が終わった.更に,2013年6月から2014年8月までわずかな蓄積があった.この1年後の2015年12月頃より霧島山硫黄山の熱活動が活発になった.2017年7月には再度マグマの蓄積が始まり,約18×106m3程度が蓄積した後,2017年10月の小規模な水蒸気噴火を経て,2018年3月に約7年ぶりのマグマ噴火に至った.このようにマグマ溜まりへのマグマ蓄積の時間変化を長期間にわたって精度よく捉えられたことから,マグマ蓄積と噴火発生の関係の解明につなげて行きたい.

(3) 火口近傍多項目観測による噴火過程の解明

 霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する知見を得た.ブルカノ式噴火では,噴火に先行する傾斜の時系列の特徴を明らかにする事を通じて,噴火に先行する火道浅部でのプロセスを推定した.最初に発生した3つの準プリニー式噴火では,地震・空振の振幅を他の観測データと比較することにより,1番目と3番目の噴火は浅部での急激な減圧より,2番目の噴火は火道のより深部に起因するトリガー機構によって引き起こされたという知見が得られた.2017年10月に再噴火が発生した際には,火口近傍の広帯域地震記録から抽出された傾斜成分から,噴火に先行して火口下1㎞付近において104m3程度の体積膨張が発生していたことが明らかになった.また,2018年3月から6月に頻発した爆発的噴火の多くは,30分程度のゆっくりした膨張とそれに続く10分程度の弱い収縮後に発生していることが傾斜変動解析により明らかになった.

3.6.3 富士山

(1) 地質・岩石学的データに基づく火山発達史

 2001-2003年度の深部掘削で得られた試料の岩石学的検討を進め,先小御岳火山,小御岳火山,富士火山はそれぞれ独自の化学組成上の特徴をもち,安山岩組成の小御岳から段階的に富士の玄武岩組成の火山へと変化してきたことを明らかにした.一方,古期後半のスコリア層のメルト包有物を主体とする解析から,富士山の浅部には安山岩質の小マグマ溜りが存在(深さ約4-6㎞と推定される)し,深部の主玄武岩質マグマ溜りから上昇したマグマとこの安山岩質マグマとが混合することによって,富士山の噴出物が生じているとするモデルを提案した[図3.6.2].さらに,新期のスコリア層の解析も進め,新期では安山岩質マグマ溜り内のマグマがやや分化し,よりSiO2に富む組成となっている可能性を指摘した.宝永の噴火で想定されているデイサイト質小マグマ溜りは,このような浅部マグマ溜り内のマグマがより分化し高いSiO2量となったものと解釈できる.また,最後の山頂噴火である湯船第二スコリアの噴出メカニズムを微斑晶の解析に基づいて行った.

(2) 富士山深部の地震波速度構造の解析

 富士山においては,過去に発生した低周波地震の震源分布や岩石学的な考察から地下15-20 km付近にマグマだまりがあると考えられていたが,地震学的に確かな証拠が存在しなかった.我々はレシーバ関数解析を行い,富士山周辺の数10 kmまでの深さの地震波速度の不連続構造を明らかにした.その結果,富士山下40-60kmの深さに南北に沈み込む顕著な速度境界面があり,富士山直下でその境界面は不連続になっていた.また,富士山下で火山性の低周波地震が発生する地下10-20kmの領域の下,およそ25kmの深さに顕著な速度境界面を発見した.さらに,レシーバ関数と富士山周辺の表面波分散曲線を合わせて逆解析することで富士山直下の深さ約50km以浅のS波速度構造を明らかにし,富士山直下の深さ20kmから40kmの深さに大きなマグマ溜まりが存在する可能性を示した[図3.6.3] .

3.6.2 伊豆大島

(1) 地震・地殻変動と広域応力場

 水平方向の広域応力場が卓越する場にある伊豆大島のような火山では,山腹割れ目噴火やダイク貫入がしばしば発生する.1989年の噴火においても,大規模なダイク貫入が起こり,山腹割れ目噴火を引き起こした.比較的粘性の低いマグマを持つ伊豆大島のような火山においては,しばしば山腹割れ目噴火が発生する.カルデラ内にある山頂で噴火する場合と異なり,居住地近くで噴火を引き起こす山腹噴火の発生予測は火山防災上の大きな課題を抱えている.また,山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかを解明することは火山学的にも極めて興味深い研究テーマであり,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入現象も併せて研究を進めている.これまで,地震活動と地殻変動の同時解析から,これらの地域でのダイク貫入現象について多くの知見が得られ,この方向で研究を推進する予定である.

 1986年11月に開始した前回の噴火から既に30年以上が経過し,次の噴火に近づいていると考えられることから,同様の状況にある三宅島の問題と併せて,2017年12月25日~26日に地震研究所共同利用研究集会「次の伊豆大島・三宅島の噴火について考える」を開催した.この研究集会では,1986年伊豆大島噴火,2000年三宅島噴火についてのレビュー,その際に解決されなかった問題,噴火後の最新の研究成果について24件の発表があった.両火山の今後の活動への関心の高さから,全国の研究者や行政関係者併せて131名の参加があった.この集会により,前回の噴火を経験した世代から,噴火を知らない世代への知見の伝達は,火山学への大きな貢献である.伊豆大島に観測網を有し,前回の噴火以降のデータの蓄積のある本研究所が全国の火山研究の中核の一翼を担い,次回の伊豆大島噴火前及び噴火後についての研究を推進することが強く期待されている.

(2) 地震・地殻変動によるマグマ蓄積過程

 伊豆大島では前回の噴火(1986年11月~1990年10月)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後長期的には山体膨張が継続している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようにした.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,ほぼ同じ場所で膨張と収縮を繰り返していると推定され,伊豆大島カルデラ北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.地震活動と地盤変動の関連については,大変興味深い現象が見いだされており,それについては開発観測基盤センターの項で詳述する.

(3) 伊豆大島における比抵抗構造と電磁気観測

 伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場測定の連続観測も引き続きおこなっている.

インドのChandigarh市で建物センサーを用いて地震動観測を実施している建物の位置図

インドのChandigarh市で建物センサーを用いて地震動観測を実施している建物の位置図

安政江戸地震の被害と余震を記録した史料『萬歳楽 安政見聞誌 上』(東大地震研所蔵)

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