3.10.5 三宅島比抵抗構造探査

三宅島は1940年,1962年,1983年,2000年とおおむね20年の間隔をおいて噴火活動をおこなっている.前回のカルデラ崩壊を伴った2000年噴火から20年を経過しようとしており,次期活動へ準備過程に入っている可能性がある.現在の火山体下の構造を把握するために,2019年5月〜6月に広帯域MT観測を実施した.全23点で各1ヶ月強電磁場計測をおこなった.今後解析を進め,現時点での三宅島下の比抵抗構造を明らかにする予定である.また,2012年に取得した広帯域MT観測データを用いた構造解析を実施した.当時は雄山を中心とし北東ー南西に横切るように12点の観測点を設置した.加えて,その測線から外して,島南部および北西に各1点ずつを設置し,計14点でおよそ1ヶ月間電磁場計測をおこなった.

3次元構造解析の結果,得られた比抵抗構造には次の3つの特徴がみられた.

  • (1)地表から深度数100m(標高0mもしくはそれ以高)に高比抵抗帯が見られた.ただし,山頂直下ではその層は薄くなっている.
  • (2)その下からおよそ標高-1000mに低比抵抗層が広くみられた.
  • (3)さらにその下は再度高比抵抗に転じたが,山頂火口直下のみは低比抵抗体が存在することがわかった.

この構造を別の側面から検証するために,山頂下標高-2.5kmの地点に火山性流体源が存在するものと想定し,透水率の高い火道を通じて鉛直上向きに熱水が注入されるとその影響により水や温度・圧力がどのような分布をとるのか,熱水流動シミュレーションをおこなった.シミュレーションによって得られた含水率,温度,圧力などの状態を修正アーチーの式に基づいて比抵抗値に直した結果,先のMT観測結果による構造と調和的な比抵抗分布となった.熱水流動シミュレーションの結果に基づくと,(1)は不飽和層に相当するため電気の流れにくい高比抵抗体になっている.ただし,山頂直下は熱水が火道に沿って上昇してくるため低比抵抗になる.(2)は注入された水が飽和し,さらに水平方向にも滲み出し広がるため,比抵抗の低い層が広く分布することになる.(3)はそれに比べ,熱水が循環しておらず相対的に高比抵抗になっている,ただし熱水が注入されている火口直下のみは低比抵抗である.また,別のエビデンスとして,三宅島内で発生している地震に着目すると(2)に相当する深度では,B型地震が卓越する,一方,より深い3)に相当する領域では,A型地震が卓越しており,その境界は極めて明瞭で,比抵抗構造の(2)と(3)とを分ける標高-1kmに一致していることがわかった.この地震の発生メカニズムも,比抵抗あるいは熱水流動シミュレーションから示唆されていたように,(2)は火山性流体に富んでいる層であり,(3)は比較的にテクトニックな状態であることと整合的である.

このように比抵抗という一物理量に着目するだけでなく,物理シミュレーションを介して他の物理観測量と直接比較検討できるようになり,こうした研究の方向性は火山学の進展に大きく寄与するものと考えている.