3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

プレートテクトニクスの発現や観測されるリソスフェア変形を説明するのに適した降伏強度200-300 MPaと実験的に得られる値,数GPaと大きなずれが存在する.実験室で用いられる試料および試料の粒子サイズ効果によってリソスフェア強度が過大に評価されてしまうという考えもある.例えば,粒径が細かくなると降伏強度が大きくなるホールペッチ効果が知られており,実験室での粒径数10ミクロンの試料から得られた強度をホールペッチ則を用いて実際の地球内部での粒径1-10 mmに外挿することで,リソスフェアの低い降伏強度が説明された.しかし,サイズ効果が果たしてその大きな粒径まで成り立つのかは不明である.少なくとも,工学材料で知られているサイズ効果の上限は数10ミクロン程度である.また,ホールペッチ則を主要造岩鉱物で示した研究はない.そこで,我々は,オリビン多結晶体の平均粒径を170 -890 nmの範囲内で系統的に変化させた試料を合成し,単結晶と共にビッカーズ硬度を測定することで,オリビンの低温下での強度の粒径依存性を調べた.また,ビッカーズ測定の際,荷重を変化させることで,変形域の大きさ依存性(インデンテーション深度依存性:試料サイズ性に相当)も調べた.その結果,粒径効果はべき乗則,(粒径)-0.09 および変形域の大きさ依存性も同じべき乗則,(インデンテーション深度)-0.09に従うことが分かった.また,単結晶の測定結果と比較することで,粒径効果は1 mm よりも大きな粒径ではなくなること,変形域の大きさ依存性も4 mm以上でなくなることも示された.粒径効果および変形域大きさ効果の相互作用は強く,その結果,最も低荷重・最小粒径で 17GPaという硬度が得られるのに対し,最大荷重・単結晶において8 GPaという小さな硬度が得られる.これらの結果は,試料および粒子サイズ効果,さらにその相互作用は大きいものの,その効果はミクロンオーダーまでで,サイズ則から(小さな)リソスフェア強度を説明することはできない.本研究成果は,Koizumi, Hiraga, Suzuki (2020 Physics and Chemistry of Minerals) で報告された.また,以上の成果に付随して,オリビン多結晶体の破壊靭性値も得られ,細粒化によってその値は小さくなること(最小値0.8 MPa m1/2),1 mm程度で1.1 MPa m1/2,単結晶で0.6 MPa m1/2となり,ある粒径で極大値を持つような粒径依存性が推定された.