3.3.6 地球ダイナミクス:水と固体地球の相互作用

太陽系の岩石惑星の中でも,地球は,海と陸,活発な地震・火山活動,プレート運動と大陸移動,地球磁場を有し,生命を宿す「にぎやかな惑星」である.なぜ兄弟惑星である火星や金星と異なりこれほど活発で多様性に富むのか,その仕組み・鍵の一つは水にあると考えている.物質科学系研究部門・岩森研究室では,これらのユニークな地球の営み(=地球ダイナミクス)について,特に水と固体地球の相互作用に注目しながら,温泉や火山の調査,室内分析,データ統計解析,数値シミュレーションなど,さまざまなフィールドや手法を組み合わせて研究している.2018-2019年には,

  • 日本列島全域の火山岩同位体組成の多変量統計解析(独立成分分析およびクラスタ分析)に基づき,沈み込んだプレートやマントルの様子がどのように列島沿いに変化するかを定量的にとらえた.具体的には,(1)日本列島のマグマが大きく東西で異なること,(2)さらに東西それぞれが,異なるスラブ由来成分(スラブ流体によりもたらされる成分)に対応する島弧セグメントや,「含水プルーム」にともなうスポット的な火成活動に分類されること,(3)マントルウエッジ自体の組成も,島弧沿いに明瞭な変化があり,比較的親水成分に富むIndian-typeに類似するマントルと,比較的親水成分に乏しいPacific-typeに類似するマントルが入り組んで分布すること,(4)(3)の入り組み方は,マントル対流の流れを反映している可能性があること,などが分かった.
  • 島弧下のマントル対流-流体分布―温度・粘性分布を考慮した地殻変動の数値シミュレーションに基づき,2011年東北地方太平洋沖地震前の大きな地殻変動の原因を突き止めた.大地震直前まで加速しつつあった海岸域の沈降と,直後から現在も続く急激で大きな隆起が,マントル深部を含めた大規模な日本列島全体の粘弾性応答に対応することが明らかとなった.この指標に基づき,海岸域の沈降が加速している地域(例えば北海道東部)は,大地震が迫っている可能性があることを指摘した.