3.2.1 地球波動現象としての地震・津波の研究

(a) 火山性津波の研究

  2018年12月アナク・クラカトア火山の山体崩壊による土砂の海中突入により,スンダ海峡周辺に津波が発生した.山体崩壊現象はインドネシア国内のみならず,アジア・オセアニア地域で周期20-100秒の地震波として記録された.地震波は津波被害が発生する20-30分前に記録されており,山体崩壊のような巨大地滑りが引き起こす津波警報が,長周期地震波の迅速な解析から可能となること示唆している.

  2015年5月に発生した鳥島近海地震はM5.7と小さいが,東南海地域で広範囲に津波が観測された.津波波形・地震波形の同時インバージョンから,地震発生時にはカルデラ底がその下部で水平に広がるマグマの増圧により傾斜運動を起し,カルデラ壁に沿って跳ね上げ運動を起していることが判明した.カルデラ浅部の複合断層運動による地震波発生効率の低下と、スミスカルデラ付近で発生するCLVD型の火山性津波地震の成因が明らかとなった.

(b) 津波を利用した巨大地震の研究

  2018年9月にインドネシア・パル湾付近を震源とする横ずれ型地震(M7.5)が発生し,湾奥に位置するパル沿岸に被害が集中した.InSAR画像と遠地地震波形解析によると,湾内を通るパル・コロ断層の横ずれ運動に加え縦ずれ運動により湾内で津波が発生したと考えられる.パル湾沿いの浸水高からは断層運動起源の津波に加え,湾内海底の液状化や地滑りがあったことが示唆される.

  2005年3月にスマトラ島のインド洋沖合で発生したニアス地震(M8.6)は,2004年12月に発生したスマトラ・アンダマン地震(M9.1)の最大余震であった.観測された最大津波波高は4m 程度で海溝型の巨大地震にもかかわらず津波被害が比較的小さかった.アフリカ・南極沿岸を含むインド洋全域の検潮記録から,最新の津波波動理論を用いて断層運動分布を求めたところ,大きな滑りは,スマトラ島下部に沈み込む深さ20キロより深いインド洋プレート上に集中し,そのため津波被害が比較的小さかったと考えられる.

(c)青い地球の地震学

  波形干渉法を釜石沖海底ケーブルの海底津波計と陸上広帯域地震計記録に適応し,海水と固体地球結合系の背景波動場の発生と伝播形態を調べた.海洋底の圧力変動は,脈動帯域では海水・固体地球結合系のレイリー波が,より高周波では海水・固体地球結合系の海中音波が生成要因であり、それらが太平洋から日本列島に向かって伝播していく様子がとらえられた.