3.2.4 観測や室内実験と理論を結びつける研究

(a) 小さなSSEのリズムへの大地震サイクルの引き込み同期現象

  SSEによる載荷が地震をトリガする効果の基礎的な見通しをえるために,数理部門および産総研と協力して,実験から得られている,ごく低速のクリープから高速の地震性すべりまでを記述できる摩擦則にしたがう1自由度バネブロックモデルを用いて,SSEを模した小さなステップ的な載荷が,定常的なプレート運動からの載荷に周期的に重畳する場合のふるまいを調べた.総体的にみれば定常載荷に近い,頻繁に繰り返す小さなSSEの場合ですら,地震の発生サイクルがSSEのサイクルに完全に同期してしまう「引き込み現象」がおきることが見いだされた.同程度の大きさの摩擦ブロック間での引き込み現象は既に知られているが,大きな地震のリズムが小さなSSEのリズムに引き込まれてしまうのは意外な発見である.この引き込み同期は非常に広い条件範囲で普遍的におきるが,その仕方は、SSE周期の整数倍の一定周期で地震がおきる単純なものから,地震数回をひとつの単位としてSSE周期の整数倍になり,そのあいだ地震発生間隔がきまったパターンで平均から増減する複雑なものまでさまざまである.基本的には,1回のSSEが大きなインパクトをもち頻度が少いほど単純な同期パターンになりやすい傾向があり,SSEはそのインパクトの大きさに応じて,地震発生間隔を平均周期からずらす力をもつように見える.ただし,どのような同期パターンでも,地震の発生がとりわけSSEの発生後短期間に集中する傾向は見られなかった.また,SSEが瞬間的なステップではなく,現実のSSEのように有限の期間をもって滑るものであっても引き込み同期は同じようにおこることが確認された.