(1) 内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程の解明

(1-1) 2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答

　2011年に発生した東北地方太平洋沖地震以降，特定の地域において地震活度が増加したり減少したりするなど内陸部の地震活動に大きな変化がみられた．これは，プレート境界における変位により，日本列島の内陸部の地殻の応力状態が変化し，地殻活動の変化が見られたと考えられる．プレート境界の大きな変位に伴う内陸部での地殻活動の変化の把握と解明は，プレート境界の運動に対する日本列島の地殻応答として，内陸部に発生する内陸地震の発生メカニズムを把握するためにも非常に重要である．地震火山噴火予知研究推進センターと共同で，東北地方太平洋沖地震発生後に地震活動の増加が見られなかった北関東の阿武隈山地より南側の地域から2004年新潟県中越地震の震源域を通る島弧を横断する測線を調査対象とし，島弧の地殻・上部マントルの高精度な不均質構造モデルを構築するために29点の地震観測点を展開し，自然地震観測を開始した．

(1-2)　茨城県北部・福島県南東部の地震活動と応力場の研究

　2011年東北沖地震以降の活動が継続している茨城県北部・福島県南東部における稠密地震観測網の維持・整備を実施するとともに，それらのデータと周辺域の定常観測点のデータとの統合処理を行った．地震活動度が徐々に低下してきているため，2019年4月以降，維持する観測点数を計40点に減らした体制で観測を継続している．蓄積された観測データを用いて，前震活動や中小地震の震源過程に関する解析を進めている．

 (2) プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明

 (2-1) 紀伊半島におけるプレート境界すべり現象メカニズム解明のための地下構造異常の抽出

　スロースリップイベントや深部低周波微動等の多様なプレート間の滑り現象を規定する地下構造異常を抽出する研究を進めている．2019年は，紀伊半島北東部の深部低周波地震の活動が活発な領域を通る測線で取得した稠密地震観測データの解析を進めた．この観測では，深部低周波地震を収録することができており，観測した低周波地震のP波・S波の検測値を用いて，低周波地震の震源決定を行うことができた．また，観測した通常の自然地震の水平動成分記録では，明瞭な後続波を確認することができた．そこで，調査測線下の構造境界に関する知見を得て，低周波地震発生域との位置関係を把握するために，水平動成分データに対して自然地震反射法解析を実施した．得られた反射法断面図からは，深さ25～30km付近に，フィリピン海プレート上面に対応すると考えられる北傾斜の反射層が確認できる．本研究で決定した低周波地震の震源は，プレート境界近傍に位置するものもあるが，その大部分が，プレート境界から5～10㎞の深さに位置している．本地域下での沈み込むフィリピン海プレートの地殻の厚さは7～8kmであることが推定されており（例えば，Nakanishi et al.,2002；Iwasaki et al., 2008），その厚さを考慮すると，低周波地震の大部分は，沈み込む海洋性地殻内や海洋性マントル内で発生していると考えられる．トモグラフィー解析で得られた測線下の地震波速度構造と比較すると，低周波地震発生域の地震波速度は，P波速度が低下し，Vp/Vs値は大きくなる特徴を示していることから，流体の存在が，これら低周波地震の発生に寄与していると考えられる．