3.5.4 比抵抗構造探査

 電気比抵抗は,温度,水・メルトなど間隙高電気伝導度物質の存在とそのつながり方,化学組成に敏感な物理量である.これらの岩石の物理的性質は,すべて,その変形・流動特性を規定する重要なファクターであり,比抵抗構造と地震学的諸情報をあわせることで,より詳細かつ正確な情報を抽出し得る.従って,当センターは内外の研究者と協力して,震源域や火山地域スケールおよび列島スケールや周辺大陸縁辺域の比抵抗構造を解明するプロジェクトにおいて,観測法やインヴァージョン手法の開発を含め,中心的な役割を担ってきた.

 2019年には,昨年度に引き続き,2015年から2018年にかけて観測を実施したいわき地方から新潟平野に至る測線での広帯域MT観測データの解析を継続した(秋田大学・東北大学・東京工業大学・産総研との共同研究).また,従来用いられてこなかった観測点間の磁場水平成分同士の周波数応答解析を試み,2次元解析結果をあわせて,その応答関数の構造決定における有用性を調べた.2016年度に実施したえびの高原硫黄山周辺域における広帯域MT観測では、その開始直後に2016年4月熊本地震が発生した.その前震,本震,余震からの地震波の到達に伴って,顕著な電磁場変動が捉えられていたため,その時空間分布の特徴の検出や界面動電現象に基づいたモデリングを実施した(九州大学・東京工業大学・北京大学・中国南方科技大学との共同研究).一方,2018年10月から11月にかけて実施した北海道胆振東部地震震源域における広帯域MT観測データの解析を進めた(北海道大学・名古屋大学との共同研究).また,大陸縁辺域スケールの大規模深部構造を求めることを目標として,中国全域にわたる3成分磁力計網のデータのコンパイルと解析を継続した(海半球研究センター,北京大学・中国地震局との共同研究).

 2019年に新たに実施した観測として,三宅島や伊豆大島における広帯域MT法観測があげられる(それぞれ2019年5月と11月に実施,火山噴火予知研究センター,東京工業大学・気象庁との共同研究).また,阿蘇カルデラを含む九州地方中央部の深部広域構造を決定するためのネットワークMT観測を開始した(京都大学・産総研との共同研究).一方,豊後水道スロースリップ域やその北側に東西に分布する深部低周波微動域を含んだ広い領域での深部比抵抗構造を決定する目的と,スローイヴェント時の電磁気的シグナルの有無を検証するため,四国西部においてネットワークMT法連続観測を継続した(3.5.10.参照).また,ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯においても同様の観測を実現すべく,準備と試験的観測を開始した(3.5.8.参照)