3.5.7 地殻変動

 巨大地震の余効変動のメカニズムの理解に向けて,余効すべりとマントルの粘弾性応力緩和を組み合わせた余効変動の物理モデルを構築した.このモデルでは,地震時の応力変化により余効すべりと粘弾性緩和が駆動され,余効すべりは摩擦構成則,粘弾性緩和はBurgers rheologyに従うと仮定している.測地学的に観測された余効変動に対する余効すべりと粘弾性応力緩和の寄与を分離し,プレート境界面の摩擦特性とマントルのレオロジーを明らかにするために,このモデルのパラメータである地震時のすべり分布,プレート境界面の摩擦パラメータ,及びマントルの粘性率を測地データに基づき同時にベイズ推定する手法を開発した.このモデルと手法を2011年東北沖地震の余効変動に適用した.推定されたパラメータは地震後7年間の地殻変動の時空間パターンを良く説明できた.

 房総半島沖では,群発地震活動を伴うMw 6.6-6.8のスロースリップイベント(SSE)が数年間隔で繰り返し発生してきた.これらのSSEの詳細を明らかにするために,千葉県の太平洋沿岸で2011年以来,GNSS連続観測を実施してきた.このデータと国土地理院GEONETのGNSSデータを用いて,1996年から2018年に発生した6個のSSEのすべりの時空間変化を推定した.その結果,各SSEの加速過程,最大すべり速度,すべりの伝播方向や伝播速度などの時間発展様式がSSE毎に異なり,地震活動とすべりの時空間発展が良く対応していることが明らかになった.また,これらのSSEのメカニズムを明らかにするために,GNSSデータと摩擦構成則に基づくモデル化に着手した.

 地震間の地殻変動におけるマントルの粘弾性応力緩和の重要性を明らかにするために,粘弾性地震サイクルモデルの構築を行った.このモデルでは,巨大地震及びプレート境界の固着による応力変化の粘弾性緩和を考慮して地震サイクル全体に亘る地殻変動の時間変化を計算する.このモデルと西南日本のGNSS及び水準測量データを比較した結果,西南日本の地震間地殻変動をモデル化する際には,プレート境界の固着による粘弾性緩和を考慮することが重要であることが分かった.