3.7.4 深海底を含む西太平洋地域への地震・電磁気・測地観測網の展開・維持とデータ公開

(1) 地震・電磁気・測地観測網(海半球観測ネットワーク)の展開・維持

(1-1) 海洋島地震観測網

ジャヤプラ(インドネシア),パラパト(インドネシア),デジャン(韓国),ポナペ(ミクロネシア),マジュロ(ミクロネシア),犬山(日本),石垣(日本),パラオ(パラオ),バギオ(フィリッピン),父島(日本),カメンスコエ(ロシア),サパ(ベトナム),ハイフォン(ベトナム),ビン(ベトナム)の9ヵ国14定常観測点における観測を, 海洋研究開発機構と共同で継続した.このうちマジュロ(ミクロネシア),父島(日本),カメンスコエ(ロシア)を除く11観測点からはリアルタイムで地震波形データを収集した.

(1-2) 海洋島電磁気観測網

ポナペ(ミクロネシア連邦),アテーレ(トンガ王国),モンテンルパ(フィリピン),カンチャナブリ(タイ),ワンカイヨ(ペルー),南鳥島の各観測点における地磁気3成分と全磁力の観測を継続した.マジュロ(マーシャル諸島)観測点については,新観測点での観測再開について,現地協力機関と協議をしている.絶対観測値を用いて2015年以降の地磁気三成分確定値の検討を開始した.また,2017 年までの観測値の公開準備を行った.

(1-3) 海底ケーブルネットワークによる電位差観測

フィリピン-グアム,二宮沖-グアム(TPC-1),グアム-沖縄(TPC-2),上海沖-苓北(上海ケーブル)の海底ケーブルについて電位差観測を継続し,これらの電位差に含まれる長期変動成分の解析を継続して行った.特に,電位差成分の永年変動(時間1階微分)に着目し,短期主磁場変動の地磁気ジャークや海流変動との関連を調査した.また,電位差変動から地下電気伝導度構造の推定を目的として,海洋潮汐による電磁誘導の数値モデリングを開始した.

(2) 海半球観測網を補完する長期アレイ観測

(2-1) 海底地震観測

海底観測網直下の構造を浅部から深部まで決定する「広帯域海底地震探査」の手法開発を継続して行った.周期3–30秒においては地震波干渉法を,周期30–100秒においては遠地地震のアレイ解析手法をもちいることで,地震波異方性も含めた深さ10–150 kmの構造の定量的な議論が,浅部の構造を仮定せずに行うことが可能となった.既存の海底観測アレイにこの手法を適用する中で,使用するデータの選別の重要性が明らかになった.

 広帯域海底地震計(BBOBS)の鉛直成分に混入する水平動成分起源の傾斜ノイズ除去方法を適用し,その有効性を明らかにした.周期20秒以上で本ノイズ除去は効果的であり,「ふつうの海洋マントル計画」で得たデータに適用した結果では15–20 dBの改善が見られた.
 Oldest1地震観測では,鉛直成分ノイズを低減するために従来1×1 mであったBBOBSの錘の底面積を2×2 mに拡張し,さらに精密な圧力変化を記録するために微差圧計(DPG)を追加した.鉛直成分に混入するコンプライアンスノイズ(内部重力波による海底圧力変動に起因)は,圧力データを用いたノイズ除去が有効であるが,Oldest1で得られた記録に適用し,周期50-300秒の周期帯で最大15dBの改善が見られた.
 また,「ふつうの海洋マントル計画」によって,BBOBSでは,エアガンによる人工地震探査の信号を300–900 km離れた地点で観測できる性能を有していることが明らかになった.このことは,地殻構造探査を目的としてきたエアガンを用いた海底人工地震探査で,海洋リソスフェアの構造探査が可能であることを示しており,この研究を推進すべく海洋研究開発機構との間に共同研究契約(OBS地震探査による海洋プレート構造研究)を締結した.2017年2–3月, 2018年7月に日本海溝のアウターライズ域で実施された人工地震探査において,複数種類のOBSによる同時比較観測を実施し,各OBSの特性を明らかにした.
 本センターが実施した海底地震観測の記録は,「ふつうの海洋マントル計画」までの記録がOHPデータセンターより公開済みである.

(2-3) 陸上電磁気観測

1998年以来,中国地震局地質研究所の協力を得て中国東北部吉林省中部および遼寧省西部・中部においてネットワークMT観測を行ってきた.そのデータの解析から,マントル遷移層の深さで電気伝導度が他地域に比べて有意に高くなる傾向が認められた.2007年より,この異常域の空間的な広がりを調べるために,中国全域にわたる既存磁場データの解析を始め,周期1日から100日程度の鉛直-水平磁場間の応答関数推定を試み,誤差の小さい良好な応答関数が推定できることを確認した.その応答関数に基づき,1次元層構造を仮定した構造推定を試みた.その結果,中国東北部の広域にわたってマントル遷移層が高い電気伝導度をもつことが明らかとなった.しかし一方で,特に低磁気緯度地域で,下部マントルに至 るまで異常に低電気伝導度となる結果が得られた.このため,応答関数に対する3次元効果を見積もっているところである(地震予知研究センターと共同).

(3) 海半球ネットワークデータの編集・公開

Boulder Real Time Technologies社のAntelopeというソフトウェアを用い,オーストラリア地質調査所,台湾中央研究院地球化学研究所,及びIRISとリアルタイムデータ交換を継続した. インドネシアの国内観測点, ADPCの観測点のデータの取得を継続した.
 超伝導重力計データの公開を継続した. 海洋研究開発機構と共同で,広帯域地震データ,GPSデータ,電磁気データの公開を継続した.