3.6.6 その他の火山に関する研究

(1) 西之島における噴火活動の把握

 小笠原諸島の西之島は,2013年11月に海底噴火を開始し,2015年11月頃までに噴出した溶岩は旧島の大半を覆い面積で2.7㎞2,噴出量は1.6㎞3に達した(第1期).その後活動が一旦低下し,2016年10月には上陸調査を実施した.2017年4月(第2期)および2018年7月(第3期)には活動が再び活発化して小規模な噴火および溶岩流出があったが,活動の期間は次第に短くなり,これ以降活動は沈静化した.これを受けて,2019年9月に再度上陸調査を実施し,第2期以降の噴出物の調査と旧島上への地震・空振観測点の設置を行った.しかし2019年12月に再び噴火が始まり,2020年2月初旬現在も活発な活動が続いている.火山センターでは関係者と協力しつつ,地質学と地球物理学の両面から火山活動の把握と西之島の成長プロセスの解明を目指して研究を進めている.以下,遠隔調査に基づく成果と上陸調査に基づく成果に分けて紹介する.

 遠隔調査:2013年11月以降,西之島の成長過程を衛星画像に基づいて把握し,溶岩噴出率の推移等を明らかにしている.2016年6月の観測では気象庁の啓風丸の協力を得て,規制区域(火口から1.5 km)の外から無人ヘリコプターによる観測を実施した.4Kカメラによる撮影を行い,溶岩流の形態的特徴の詳細や,スコリア丘の表面に発達した亀裂構造を観察した.スコリア丘の麓においては,岩石試料を採取した.また,第2期活動後,第3期活動後にも,気象庁の凌風丸および啓風丸の協力を得て,ドローンによる地形観測,試料採取等を行い,それぞれの活動の概要を把握した.他の部門・センターとの共同研究では,西之島周辺海域に海底地震計を設置して,噴火活動に伴う振動を連続的に観測することに成功し,2015年から2017年にかけての噴火活動の推移を連続的に把握した.一方で,第2期の活動推移を明らかにするために,ひまわり8号赤外画像,ランドサットOLI,プレアデス,ALOS-2画像等の高分解能衛星画像を用いた解析を行った.この結果,第2期活動は2017年4月中旬から8月上旬まで続き,陸上と海面下を合わせた総噴出量は1.6×107 m3,平均噴出率は1.6×105 m3/dayと推定され,当該期の平均噴出率は第1期と同程度かやや低いことが明らかになった.噴出率は初期に高く全体として時間と共に低下傾向を示すが,活動中頃(6月上旬)に一時的に高まるステージをもつことがわかった.
  西之島から130km離れた父島に設置した空振計と気象庁の地震計のデータを用い,相互相関解析から,西之島の噴火に伴う空振活動の把握を行った.また,波の力だけを用いて海上を移動する無人ボート,ウェーブグライダーを用いた海上インフラサウンド計測システムを開発し,実用試験を行った.父島近海から放流し,西之島まで航行,西之島を中心とする半径5kmの周回軌道を5周して父島近海に帰還するまでの10日間,空振および水中ハイドロフォンのデータを収録し,一部を衛星通信によって送信を続けた.試験の結果,システムが実用レベルに到達したことを確認した.

 上陸調査:2015年秋以降の活動低下を受けて,2016年10月16日から25日にかけて西之島の火山活動と生物相の調査を実施した.上陸調査では,西海岸および旧島で地形・地質の調査および火山噴出物採取,地震・空振観測点の設置,噴火後の海鳥営巣状況の把握が行われた.また同航海中に,西之島周辺海域での海底地震計,海底電位磁力計の設置・回収とウェーブグライダーを用いた離島モニタリングシステムの試験も実施した.旧島上に設置した地震・空振観測点は,第2期活動の噴火開始1日前から火道内部のマグマ上昇を示すと考えられる低周波地震や傾斜変動を捉えることに成功した.一方,採取した2014年3月から2015年11月頃までの噴出物の全岩化学組成分析を行った結果,全ての試料について安山岩組成であり,1973-1974年噴出物と旧島溶岩との中間的な組成であること,また化学組成は狭い範囲に集中し,時間経過とともSiO2含有量が低下,MgO含有量が増加したことなどが明らかになった.
 2019年9月には環境省の総合学術調査に参加し再度上陸する機会を得て,第2期以降の噴火活動により生じた地形や地質,噴出物の調査と試料採取,地震・空振観測点の再設置を行った.2017年噴火により島の西側および南西側に流出し,地形を大きく変えた溶岩流は,地質学的には第1期活動の噴出物とよく似ていることがわかった.一方,化学分析の結果,噴出物は安山岩であるものの,全岩化学組成では第1期噴出物とわずかに異なっており,SiO2含有量の低下やMgO含有量の増加が認められることがわかった.2019年12月には再び噴火が始まり,爆発的噴火と溶岩の流出により島は再び成長を始めた.再設置した地震計や空振計により,新たな噴火活動の開始の様子やその後の噴火推移を捉えることに成功している.

(2) 海外の火山における噴火活動の研究

 2010年に有史初めての噴火を開始したインドネシアのシナブン火山において,SATREPSプロジェクト(インドネシアにおける地震火山の総合防災対策)として,インドネシア・火山地質災害軽減センター(CVGHM)と共同で現地調査を実施し,地質図を作るとともに,将来の噴火に備えたイベントツリーを作成した.また2013年からは,ケルート,メラピを含む活動的6火山を対象に,CVGHMとの共同研究を新たなSATREPSプロジェクト(火山噴出物の放出に伴う災害の軽減に関する総合研究)として開始した.その間,インドネシアで進行中の火山噴火についての活動評価を分担した.2013年に活発化したシナブン火山においては,溶岩流/ドームの成長をレーザー距離計による計測や衛星写真からの図化により地形変化を解析し,噴出率が時間とともに指数関数的に減衰したことを明らかにした.また,火山灰や火砕流堆積物中の溶岩試料の化学分析を継続して実施し,マグマ組成がほとんど変化せず,噴出率の低下により結晶度が増していることを示した.2015年からは噴出率が低下しているにもかかわらずブルカノ式噴火が繰り返して起こり2年以上継続した.これは山頂が地形的に不安定のために溶岩ドームが崩れ続けて大きくなれず,火口上の溶岩の荷重圧を稼ぐことができずに継続的に溶岩供給が続き,火道上部では,マグマからの脱ガスが不完全なために爆発が継続していると解釈した.2014年2月13日にプリニー式噴火を起こしたケルート火山において現地調査を実施し,噴出量や噴火の推移を明らかにした.そこでは,プリニー式噴火に先行して,先の噴火でできた溶岩ドームを噴き飛ばす爆発的な噴火によって火砕サージが発生したこと,プリニー式噴火の噴煙柱が崩壊して火砕流が火口から周囲に発生したことなどを明らかにした.

 1980年代に災害を伴う噴火を発生したコロンビア共和国のネバドデルルイス火山およびガレラス火山を対象とする,SATREPSプロジェクト(コロンビアにおける地震・津波・火山災害の軽減技術に関する研究開発)の一環として,火山の表面活動を監視するシステムの開発を分担している.対象の2火山を含む,中南米地域の活動的な火山の熱活動を,衛星赤外画像から監視するシステムを開発し,現在活動を続けているネバドデルルイス火山における熱異常を捉えると共に,この地域での雲活動の変化のデータへの影響を評価した.また,ネバドデルルイス火山に新たに整備した空振観測網のデータを用いて,微弱な噴火に伴う空振の自動検出を試み,目視等による噴火検出を補助する情報として有用であることを示した.

 インドネシアのアナククラカタウ島で2018年12月に発生した山体崩壊とそれに伴う津波災害に関連して,JST国際緊急共同研究・調査支援プロジェクト(J-RAPID)「インドネシア スンダ海峡津波関連」の中の課題で地質学的研究を分担し,CVGHMの研究者と共同で現地調査を行った.アナククラカタウ島北部や隣のパンジャン島西岸での地質調査により,初期の火砕物密度流堆積物,崩壊に伴い発生したと考えられる津波の遡上痕跡や津波堆積物,崩壊後のマグマ水蒸気爆発に由来するテフラを見出した.これらの堆積物の層序関係や層相,構成物をもとに,噴火と山体崩壊,津波のプロセスの詳細について理解を進めている.