3.3.1 多結晶体特性からみた地球内部ダイナミックスの素過程

上部マントル粘性率は、主要鉱物であるオリビン多結晶体の実験的に得られる流動則を地質条件に適用することで推定できる。しかし、とりわけ拡散クリープ条件において、研究グループ間で粘性率にして2桁もの異なる結果が報告されており、信頼できる流動則は確立されていなかった。オリビン粒界ではCaやAlなどの不適合元素が濃集(粒界偏析)する。実験結果の違いは、用いられたオリビン多結晶体試料中の粒界偏析の有無に起因すると予想した。我々はCaとAlをわずかに添加したオリビン多結晶体試料と無添加試料を作製し、大気圧高温一軸圧縮実験によって化学組成が流動特性に与える影響を調べた。その結果、粒界拡散クリープが支配的であること、及び添加試料は試料の融点の0.92倍程度以上から無添加試料と比べて軟化し、その程度は温度上昇とともに増加することを明らかにした。添加試料が軟化した原因は、粒界偏析と温度に駆動されるソリダス近傍での粒界の無秩序化によるものと結論づけた(Yabe, Sueyoshi & Hiraga., 2020, JGR)。その軟化の効果を組み込んだ拡散クリープ則に基づいて、海洋上部マントル粘性率の深度構造を推定した。粒径が1 mmであると、1019–1020 Pasの低粘性層およびプレート冷却に伴う高粘性層の発達が推定され、リソスフェア‐アセノスフェア構造とよく対比できた (Yabe & Hiraga, 2020, JGR)。