3.3.8 沈み込み帯温度構造のモデル化

沈み込み帯における多様な地震・火山活動を理解する上で最も基本的な情報の1つが温度であり,その詳細を明らかにするため物理法則に基づくモデリングを行っている.温度構造を予測する際の重要なパラメータの1つとして熱伝導率があり,近年熱伝導率の変化を考慮した海洋プレート冷却モデルが精力的に発表されてきた.しかしそれらのモデルが沈み込み帯の温度構造にどのように影響するのかまではあまり調べられてこなかった.そこで特に熱伝導率に着目しつつ,海洋プレート冷却モデルが東北地方下の温度構造に与える影響に焦点を当てた研究を行った.

熱伝導率として一定,温度のみに依存,温度と物質に依存,の3種類を考慮した.まずそのそれぞれに対して、観測された海洋底深さと地殻熱流量の海洋プレート年代に伴う変化を説明するような海洋プレートの厚さとマントルポテンシャル温度を不確かさまで含め推定した.得られた不確かさはおよそ±5 kmと±50℃であった.次に,得られた3種類の海洋プレート冷却モデルを海溝における温度境界条件として用い,東北地方沈み込み帯における温度構造を予測した.そして得られた温度分布と岩石の相図を組み合わせることで,やや深発地震の発生に関連しているとされる海洋地殻内の青色片岩とスラブマントル内の蛇紋岩が脱水反応を起こす相変化境界の推定を行った.その結果,仮定する熱伝導率によって相変化境界の位置が10 km程度変化することが明らかになった.脱水と地震発生との関連を議論する上で10 kmの差は大きいと考えられる.