3.11.8 首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト:サブプロジェクト(b)「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」

2017年から「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」が開始された.このプロジェクトは,3つのサブプロジェクトからなり,その中のサブプロジェクト(b) 「官民連携による超高密度地震動観測データの収集・整備」の一部を地震研究所で担当している.これまでに解明を進めてきた首都圏の地震像の精緻化や都市の詳細な地震被害評価に資するものにするため,政府関係機関が保有する,首都圏に整備された稠密かつ高精度な地震観測網(MeSO-net)と全国規模の地震観測網(K-NET,Hi-net等)により得られるリアルタイムの観測データ,民間が保有する地震観測データを統合した超高密度地震動観測データを収集・整備することを目標としている.

具体的には,MeSO-net等で収集された高密度な地震観測データを利用して,首都圏の地震ハザード評価に資する首都圏中心部や伊豆地域における詳細な地下構造の提案,首都圏における過去~現在の地震像の解明,将来の大地震による揺れの予測手法の開発,統合された地震観測データを用いてノイズレベルの高い首都圏でも適用可能な自動震源決定手法の高度化,歴史地震による揺れの分布の再現,3 次元階層化地震活動予測モデルを開発等の研究を行っている.

 今年度は,これまでにトモグラフィー解析で推定した地震波速度異方性構造と温泉地学研究所がレシーバ関数法で推定したフィリピン海プレートの構造とを統合した.それぞれの解析結果の精度が不十分な部分を補い合うことができ、その結果,フィリピン海プレートの地殻の厚さの分布が明確になり、地殻の薄い部分が過去の大地震の震源域と対応することが明らかになった.それは,今後発生すると考えられている首都圏の大地震の地震像を想定する際に,重要な要素の一つになる.

 大地震が発生した際の地震波による地表面の揺れは,必ずしも均質ではなく,地域によって異なっている.揺れは,地震波減衰構造や地盤特性等に大きく影響されるためであり,細かな地点ごとの情報があれば,そこから算出することが可能である.しかし,詳細な被害分布を推定するには,まだ地下構造の情報が足りない.そこで,これまでに観測された地震動を用いて,相対的な地点ごと揺れの特徴を求めた.その情報をもとにして,面震源(断層)を仮定した際の震度分布推定アルゴリズムのプロトタイプを開発した.

 大地震の発生は大きな被害をもたらすが,その頻度は高くなく,その情報は限られている.そのため,大地震の地震像やその被害状況を知るためには,過去に遡って古文書等から読み解く必要があり,これまでに多くの文献が収集されてきた.被害の記述から被害の程度を判定し,その分布から震源の位置や地震の規模等を知ることができた.ただ,その震度は,震源から同心円状に分布するわけではなく,地域による不均質がみられる.地下構造や地盤特性の影響と考えられるが,それを現在の地震の震度分布と比較するために,震度のデータベースを作成している.具体的には,古文書に書かれている被害地点を古地図の中から探し出し,位置を特定する.そして,その地点に地震計を設置し,現在の地震による揺れを観測する.古文書に記述されていない地点でも同時に観測することで,相対的な震度を推定することができ,震度分布の密度を高めることが可能になり,歴史地震の地震像を推定する際の重要な情報の一つとすることが期待される.

近年に発生した大地震の本震発生前後の地震活動を統計モデルで解析し,余震活動の収束性や本震に至る地震活動の特徴の解析を継続して行い,統計モデルの高度化をはかっている(例えば能登半島の地震).