3.3.7 高温マグマプロセス解明に向けた物質科学的研究

 プレート収斂域での火成活動において、部分溶融によるメルトの発生からメルトの上昇・冷却・定置といった一連の過程がどのような時間スケールで進行するのかを明らかにすることは、大陸地殻-マントル間での物質的・化学的分化の過程を理解する上で重要である。こうしたマグマ活動の中でも、特に高温(>600℃)でのプロセスに時間軸を設定する上で鍵となる手法が高い閉鎖温度(約900℃)を持つジルコン鉱物のウラン・トリウム系列年代測定法である。物質科学系研究部門・坂田研究室ではジルコン鉱物から得られる時間情報の高精度化を進めると共に、従来法では得ることのできなかったメルトの発生から鉱物晶出までの期間を定量化する新たな年代測定法の開発を進めている。さらに、マグマ溜まり中での温度や化学組成の変化を追跡する目的で鉱物中の微小領域(15-30μm)からチタンや希土類元素を精確に定量する技術を確立した。こうした年代・元素分析を国内の第四紀火山噴出物(三瓶火山、戸賀火山、霧ヶ峰等)や深成岩体(黒部川、大崩山、遠野等)の試料に適用し、数千年-1万年程度の時間分解能でマグマ中の温度変化や化学組成変化を復元することに成功した。

 また、現存する物質的記録が極めて少ないとされる地球誕生から最初の5億年間(冥王代)の地殻の化学進化を解明する研究も進めている。西部オーストラリアより採取した礫岩より500粒子以上の冥王代ジルコンを発見し、高精度のU-Pb年代測定や化学組成の分析を進めている。特にこれまで冥王代ジルコンでも報告数の少なかった42-44億年前のジルコンも数十粒子集積しており、報告されている最古の地球ジルコン(約44億年前)と同等の年代を持つものも発見した。現在冥王代ジルコンの年代、化学組成を用いて独立成分解析を行うことで44-40億年前の地球最初期の表層・地殻の環境を変化させる機構についての推察を行っている。