3.5.10 日本海地震・津波調査プロジェクト

 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う大津波は,日本列島の広汎な領域に極めて甚大な人的・物的な被害を及ぼし,防災対策の見直しが必要になっている.日本海側には,津波や強震動を引き起こす活断層が多数分布している.このことを背景として,文部科学省の「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究(2007〜2012年)」において新潟沖〜西津軽沖にかけての領域を対象に調査観測を進め,震源断層モデルを構築した.しかし,それ以外のほとんどの地域については,震源断層モデルや津波波源モデルを決定するための観測データが十分に得られていない.こうした問題点を解決するために,2013年度より「日本海地震津波調査プロジェクト」が開始された.本プロジェクトでは,日本海の沖合から沿岸域及び陸域にかけての領域で,津波の波高予測を行うのに必要な,日本海の津波波源モデルや沿岸・陸域における震源断層モデルを構築するための観測データを取得する.また,これらのモデルを用いて,津波・強震動シミュレーションを行い,防災対策をとる上での基礎資料を提供するとともに,地震調査研究推進本部の実施する長期評価・強震動評価・津波評価に資する基礎データを提供する.また,このような科学的側面に加えて,津波や強震動による被害予測に対する社会的要請の切迫性に鑑みて,調査・研究成果にもとづいて防災リテラシーの向上を目指して,地域研究会を立ち上げ,行政と研究者間で津波や強震動による災害予測に関する情報と問題意識の共有化を図っている.

 2021年は本プロジェクトの最終年度にあたり,これまでの構造探査の成果に加えて, 日本海側の平野下で新たに見出された伏在活断層を含め,震源断層モデルを構築した.これらの震源断層モデルをもとに,日本海沿岸での津波予測を行った.また,大和海盆と日本海盆で実施してきた広帯域海底地震計を含む地震観測記録の解析により,日本海海域下のリソスフェアーの厚さを明らかにした.被害地震発生の中期予測のための基礎資料をえるために,プレート形状を含め上盤プレートのモデル化を行い,測地データや発震機構から推定される応力状態のデータを基に,断層面に作用するクーロン応力の変化を求めた.これらの成果は,プロジェクトの成果報告書として公表されると共に, 日本海沿岸の道府県での研究会を通じて広報された.