3.6.5 霧島山

 霧島山に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.

(1)噴火に関連する微動活動と地殻変動

 新燃岳における微弱な火山性微動の長期活動の解析を行った.2008年8月の水蒸気爆発以降の約8か月間微弱な微動がほぼ同じレベルで継続していたことと,2010年10月から2011年噴火に向けては,顕著に振幅の増加が進んだこと,2017年噴火の数か月以上前からも振幅の加速的増加が発生し,2018年噴火まで続いていることが明らかになっている.この微動の成長期は,深部マグマだまりの膨張を示す地殻変動も発生していること,その震源は新燃岳火口近傍の2 km以浅にあると考えられることから,噴火前の長期的なマグマ移動に伴う振動であると解釈される.また,2011年噴火の主噴火発生後の調和型微動については,非線形振動系を示唆する 特徴が抽出され,流体の流れが励起する振動であることが示されている.

(2)地殻変動観測とマグマ蓄積過程

 稠密なGPS観測網により,霧島新燃岳の2011年1月噴火に関与するマグマ溜りの位置や,噴火前の蓄積レート,噴火に伴う流出量,噴火後の再蓄積レートが詳細に求められている.また,2018年3月に発生した7年ぶりのマグマ噴火に先行する蓄積レートも求められている.このようにマグマ溜まりへのマグマ蓄積の時間変化を長期間にわたって精度よく捉えることで,マグマ蓄積と 噴火発生の関係が解明されつつある.

(3)火口近傍多項目観測による噴火過程の解明

 霧島山新燃岳の火口近傍で観測された広帯域地震計,傾斜計により,2011年噴火活動初期の準プリニー式噴火,マグマ湧出期,ブルカノ式噴火という異なる火山活動に伴う火道浅部に起因する傾斜変動を捉え,これらの火山活動に関連する火道浅部のプロセスに関する詳細な知見が得られている.また,2017年10月の再噴火発生から2018年のマグマ噴火までの噴火については,火口近傍の広帯域地震記録から抽出した傾斜成分の解析により,噴火に先行する膨張と噴火後の収縮の時定数が推定されている.

(4)微小地震活動

 火山性地震活動特性の把握のため,機会学習を利用した地震検出及び震源位置推定手法の開発を進めた.過去に様々な火山で観測された火山性地震の波形記録を教師データとした学習モデルを構築し,この手法を霧島山地震観測網の2017年以降の波形データに適用した結果,新燃岳や硫黄山浅部においてごく微小な火山性地震が多数検出され,高精度に震源位置が推定された.2017年から2018年の噴火の際には,数か月先行して,火口浅部で地震活動の高まりがみられることが明らかになった.

(5)噴出物解析に基づく大規模噴火の推移の解明

 霧島山御鉢火山13世紀高原噴火で発生した苦鉄質マグマによる3回のサブプリニー式噴火の堆積物層序を再構築し,この噴火の噴出量を再検討した.また層序毎の火砕粒子の粒子物性(粒径分布,みかけ密度,連結空隙量,粒子形状指数など)と岩石組織(空隙構造,気泡サイズ分布など)の定量化を進め,これらのパラメータが層序毎に系統的に変化していることを明らかにした.これらのデータにより,高原噴火の推移と噴火強度の盛衰について,従来よりも詳細に議論することが可能となった.この研究により,粒子物性-岩石組織の統合解析が噴火プロセスの理解に有効であることもわかった.