3.10.3 高層物理に由来する地磁気日変化モデルを利用したマントル電気伝導度分布推定

マントル遷移層物質であるWadsleyiteやRingwooditeは最大含水率が高いため,大量の水を含有している可能性が示唆されている.電気伝導度は含水率の多寡によってオーダーで変化する物性量であるため,電磁気探査はマントル含水率推定に有効な手段である.本研究では,全世界の71観測点の地磁気日変化データを解析し,マントル電気伝導度不均質構造を推定した.この周期帯は上部マントル下部~マントル遷移層上部にかけての電気伝導度構造を反映している.ただし,地磁気日変化は主に電離層電流を起源とし,その分布(Sq場)は複雑であり,MT法のような平面波分布の仮定が成り立たない.また,71観測点のデータでは複雑なSq磁場を描像するには不十分である.本研究では代わりに,大気圏―電離圏の高層物理を基にした数値モデルGAIAを電磁場変動ソースとして使用することにした.GAIAは気象再解析データを大気電離層結合モデルに同化しており,Sq場をよくモデル化していることが知られているが,一方で,固体地球の影響は考慮されていない.そこでGAIAを誘導電磁場とし,それにより固体地球内での電磁誘導により誘導された磁場との和であるトータルの磁場が,実際の観測磁場データとよく一致するように固体地球内の電気伝導度分布を求めた.具体的には,海洋と陸域の電気伝導度不均質のある表層とその下は1次元球殻成層モデルを仮定し,GAIAをソースとした電磁誘導方程式を複数のモデルに対して解くことで,各観測点に対して最も磁場データをよく説明する成層電気伝導度モデルを探索した.その結果,ヨーロッパでは,上部マントルで電気伝導度が0.1S/mを超える高電気伝導のモデルが,北西太平洋では,0.01S/m以下の低電気伝導モデルが有力であることがわかった.この違いは,沈み込むスラブによって輸送される水の量の差異であり,その原因はスラブの温度の違いを反映していると考えられる.年齢の浅い比較的温かいプレートは水を深部まで運ぶことができず上部マントル中で脱水してしまうのに対し,古い冷たいプレートは深部まで運ぶことができたため,先述の上部マントル含水量の差異がみられたと考えられる.