3.5.2 海域地震観測および地震波構造調査

沈み込み帯における地震発生は,プレート境界面における摩擦によってひずみが蓄積し,地震時に蓄えられたひずみエネルギーが解放される現象である.地震発生に関するプレート境界の性質は,境界の形状および温度や水の含有量といった物性によって決定されると考えられる.低周波イベントからプレート境界型巨大地震まで,その発生メカニズムを理解する上で,プレート境界の固着程度の把握,およびその周辺の構造や物性を詳細に理解することが必要不可欠である.さらには,プレートの沈み込みに伴う脱水反応によって生成された水の挙動が,上盤プレート内の内陸地震の発生に関与していることもわかって来た.我々は沈み込み帯の全体構造の把握,およびプレートの沈み込みに伴う諸現象の理解を通して地震発生メカニズムの解明をめざし,海域での地震観測や制御震源地震波構造調査などによる研究をすすめている.

(1)茨城沖の海山の沈み込みと多様な地震活動との関係

茨城県の東方沖合~100 kmでは,太平洋プレートの沈み込みに伴って,~20年周期でマグニチュード(M)7級の地震が繰り返し発生してきた.2004年の海域構造調査,および2005年海域地震観測から,深さ10 kmに海山が沈み込んでおり,M7繰り返し地震の断層がその沈み込み前縁部に位置すること,また海山上のプレート境界では地震活動が見られないことを明らかにした.2010年10月から,この海山前縁部周辺の 35km×30km の領域に長期観測型海底地震計を用いて,観測点間隔 6kmという高密度なアレイを構築し,およそ1 年間の地震観測を行った.またこの観測網を通る南北150kmの測線で,エアガンを人工震源とした構造調査を行った.本観測期間中には2011年東北地方太平洋沖地震(東北沖地震)が発生し,さらに本震震源域南限に位置した本観測アレイの近傍で最大余震が発生した.本震発生前後での地震活動を比較すると,本震発生後は震源域南限全域で地震活動が活発化しているが,特に沈み込む海山の前縁部周辺域で非常に活発化していることがわかった.また,海山沈み込み最前縁部において,地震活動の空白領域が存在する可能性が示された.この地震活動と本震および最大余震の発生との関連について詳細に調べたところ,本領域の活動が本震よりも最大余震によって活発化したことを明らかにし,本震のプレート境界面すべりが茨城県沖まで達しなかった可能性について議論した.これまでの海山の沈み込み前方で発生したM7以上の地震の発生様式を比較すると,海山の沈み込み前方基底部で地震が発生し,その後にプレート境界面上の沈み込み深部を震源としてM7以上の地震が発生するというパターンが見られる.最近になって日本海溝沿いに海底地震津波観測網が整備され,通常の地震活動に加え,低周波の地震活動も明らかになりつつある.沈み込んだ海山周辺でも,微動や超低周波地震の活動が確認された.これらの活動と沈み込み構造との関係を調べるため,人工震源構造調査のデータを解析している.また,本海域で発生した地震の震源および発震メカニズムを詳細に調べることを目的として,環境雑音の観測点間相互相関関数を用いた表面波速度構造解析による,非常に遅い堆積層内S波速度構造を精度良く決定するための手法,さらにこのS波速度構造を取り入れて,海底地震計波形データを用いた微小地震のセントロイド・モーメント・テンソルを求めるインバージョン法の開発を行った.これらの手法を2011年東北沖地震の余震活動に対して適用し,震源メカニズムの分布を求めたところ,沈み込んだ海山の深部側プレート境界周辺では逆断層型地震が発生しているのに対し,その浅部にあたる海山上では正断層型地震が発生していることが分かった.これは海山の沈み込みに伴う応力場数値計算の結果と調和的である.これらの地震活動よりもプレート境界浅部側では,通常の地震発生は見られなくなり,テクトニック微動の活動が分布する.現在,地震活動の分布について,さらに詳細を調べている.なお,この観測研究は北海道大学,東北大学,九州大学,千葉大学との共同研究である.

(2)2011年東北地方太平洋沖地震震源北限域における地震波構造調査

三陸沖の北緯39度には,南側の地震活動の活発な領域と北側の非活発な領域の境界が存在することが知られていた.2001年に海域地震波構造調査を行い,地震活動とプレート境界反射波の振幅の間に,良い反相関の関係があることを明らかにした.この境界領域は,東北地方太平洋沖地震震源域の北限に当たると考えられている.地震発生前後でプレート境界の反射強度に変化が見られるか確認するために,2013年9月に海洋研究開発機構の白鳳丸を利用して行われたKH-13-5次航海において,2001年と同じ測線上に同じ観測点配置で海底地震計を設置し,再度構造調査を行った.また2014年10月には,同じく海洋研究開発機構の白鳳丸によるKH-14-4次航海において,東北地方太平洋沖地震でプレート境界が大きく動いたとされる海溝軸近傍の陸側斜面において,海底地震計およびエアガン人工震源を用いた海域構造調査を行った.2013年構造調査のデータを用いて,人工震源からの初動の走時,およびプレート境界からの反射波の走時を目視検測し,走時インバージョン法によって本調査測線に沿った2次元P波速度構造およびプレート境界面の形状を明らかにした.その結果,地震活動が変化する境界に対応して,プレート境界の深さも,およそ1km程度変化していることがわかった.プレート境界反射波の強度について,2001年と2013年のデータについて比較したところ,2001年構造調査で確認された反射波強度が強いところで強度が弱くなり,弱いところで強くなる傾向にあることが考えられ,さらに検討を進めているところである.2014年構造調査測線では,東北地方太平洋沖地震で大きな断層すべりがあったとされる場所のプレート境界の深さが浅くなっている領域が認められた.走時インバージョンによって求められた速度構造については,誤差評価の解析を進めつつ,断層すべりとプレート境界面形状との関係について,さらに詳しい調査を進めている.なお,これらの調査研究は,北海道大学,東北大学,鹿児島大学,千葉大学との共同研究である.

(3)伊豆大島における陸海統合地震波構造調査

伊豆大島火山と周辺海域において,人工震源を用いた構造探査が2009 年 10-11 月に実施された.伊豆大島の常時観測点に加え,37 台の海底地震計を東西方向の長大測線,288台のジオフォンを東西・南北方向の 3 測線(A-C)に臨時配置され,最大3日間にわたり連続観測が実施された.その際に,長大測線沿って,エアガンが 476 回発振され,海中発破が 9回行われた.さらに,伊豆大島を囲むようにエアガンが 751 回発振された.現在,海底地震計データから伊豆大島周辺の地殻上部の大局的なP波構造を,陸上観測点データから伊豆大島直下の詳細なP波速度構造の推定し,火山性地震との関連性を議論しているところである.同時観測された常時微動データに地震波干渉法を適用することで S 波構造推定を試み,P 波構造との統合的解釈を目指している.