3.6.3 伊豆大島

伊豆大島に関してはこれまでの本センターの研究により以下のような知見が得られている.

(1)地震・地殻変動と広域応力場

フィリピン海プレート北縁にある伊豆大島では,フィリピン海プレートと日本列島のプレートが伊豆半島北縁で衝突していることにより,その周辺の広域応力場は,北西―南東方向に圧縮場,北東―南西方向に伸張場が卓越している.このように水平方向に伸張と圧縮の双方に大きな応力場が卓越する火山では,岩脈(ダイク)の貫入や側噴火(山腹噴火)がしばしば発生する.伊豆大島においても側噴火火口が圧縮軸方向に延び,山頂を中心に島内だけでなく,海底においても島の北西延長に火口丘がいくつかあり,それは静岡県伊東市沖まで続いている.前回の1986年の噴火では,大規模なダイク貫入により山腹割れ目噴火が発生し,一部の溶岩流が住居地域に近づいたため,全島民が避難する事態になった.伊豆大島のような火山島においては,カルデラ内にある山頂で噴火する場合と異なり,居住地近くで噴火を引き起こす山腹噴火の発生予測は火山防災上の大きな課題を抱えている.また,山頂噴火と山腹割れ目噴火の噴火様式の差は何が作るのかを解明することは火山学的にも極めて興味深い研究テーマであり,同様の地球物理学的環境にある三宅島,伊豆東部におけるダイク貫入現象も併せて研究を進めている.これまで,地震活動と地殻変動の同時解析から,これらの地域でのダイク貫入現象について多くの知見が得られている.

1986年11月の前回の噴火から既に30年以上が経過し,更にその前3回の中規模噴火から始まる一連の噴火活動の開始が1876年,1912年,1950年と36~38年間隔で規則的であったことから,次の噴火に近づいていると考えられる.伊豆大島と同様に,噴火間隔が比較的規則的で,山腹噴火も繰り返す三宅島との比較が重要であることから,2017年12月25日~26日に地震研究所共同利用研究集会「次の伊豆大島・三宅島の噴火について考える」を開催した.これを契機に,文部科学省委託研究「次世代火山研究推進事業」の中で三宅島でも機動観測を実施し,観測開発基盤センターと協力しながら,両火山を比較検討して研究を進めている.

(2)地震・地殻変動によるマグマ蓄積過程

伊豆大島では前回の一連の噴火活動(1986年11月~1990年10月頃)以降,1990年代半ばまで山体が収縮していたが,1990年代後半から山体膨張に転じ,その後は長期的には山体膨張が継続している.これは,火山の地下でマグマが蓄積していることを示している.2003年から地震観測網の高度化及びGPS観測網の構築を行い,地震活動及び地殻変動の時間変化が詳細に観測できるようにした.その結果,以下のような特徴が明らかになった.1)長期的にはマグマ蓄積が進み,山体膨張が進んでいるが,その中に1~3年間隔で収縮と膨張を繰り返している.2)マグマ蓄積の圧力源は,ほぼ同じ場所で膨張と収縮を繰り返していると推定され,伊豆大島カルデラ内北部地下約5kmの場所であると推定される.このような間欠的な山体膨張・収縮の原因,噴火へ至る過程の解明が課題である.地震活動と地盤変動の関連については,大変興味深い現象が見いだされており,それについては開発観測基盤センターの項で詳述する.

(3)伊豆大島における比抵抗構造と電磁気観測

伊豆大島では,比抵抗ならびに全磁力等の電磁気連続観測を実施している.比抵抗連続観測は人工電流源を用いたCSEM法に基づくもので,火口の南および北東に2つの電流送信局と,火口周辺に5点の測定点を設置している.その結果,浅部から深部に向かって,高比抵抗-低比抵抗-極低比抵抗のおおむね三層構造からなることがわかった.また,連続観測により,帯水層上面の昇降によるものと考えられる年周変動が確認された.また,島内9点における全磁力連続観測からはここ数年,火口近傍の帯磁傾向の鈍化がみられる.なお,この他にも直流法比抵抗測定,地磁気3成分,ならびに,長基線電場測定の連続観測も引き続きおこなっている.

(4)伊豆大島における大規模噴火の推移とマグマ供給システム

伊豆大島では,これまでおよそ100~150年おきに大規模な噴火(噴出量1億トン以上)が発生している.これら歴史時代の代表的な大規模噴火について,地質学的,物質科学的研究を進めている.最新の安永噴火については,新たな層区分を提案するとともに,層序毎の岩石鉱物化学組成・組織の特徴を明らかにした.その結果,しだいに斜長石斑晶に富むマグマが噴出したことや,それに対応した噴火強度やマグマ噴出率(噴煙高度)の変化など,マグマの特徴と噴火推移の詳細が明らかになってきた.他の噴火についても同様の解析を進め,伊豆大島の大規模噴火の特徴や共通性,それらの原因を明らかにする研究を進めている.