3.6.7 新たな観測手法の開発

(1)火山の空振モニタリング手法の開発

火山噴火に伴う空振の波形や振幅を正確に計測するため,新しい空振計を開発している企業や工学系の研究者らと協力し,小型・低消費電力マイクロフォンやMEMSセンサー,高精度気圧計の比較試験,火山地域における長期評価試験,国立極地研究所の低温室における低温耐性試験を行い,必要な改良を進めている.

より効率のよい空振アレイ観測の方法として,従来のアレイ観測よりも一桁空間スケールの小さい,10メートルサイズの極小規模アレイの開発を行い,さらに,地上2~4m程度の高さに1要素加えることによって,方位角だけでなく仰角の分解能が向上させられることを示した.イタリアのストロンボリ火山において,極小規模空振アレイを用いて観測したデータの詳細な解析を行った.そして,アレイ解析と波動場数値計算を組み合わせることにより,これまでにない精度で空振源の高さに制約を与えることができた.また,活発な噴気活動を続ける霧島火山硫黄山周辺において,大小二つの噴気からの空振シグナルを計測・分離する観測実験を行った.3要素極小規模空振アレイと単独空振計による観測データの統合解析により,音源分解に成功し,両者の振幅比が15:1であると決められた.強度に差のある空振場で微弱な音源を把握することは容易ではなく,本研究の手法は,噴気地帯や複数の活動的火口を有する火山の監視や観測に役立つものと考えている.

(2)無人ヘリやドローンを活用した火口近傍観測システムの開発と応用

活動的な火山において,観測者を危険にさらすことなく火口周辺での様々な観測を実施することを目的として,2008年から無人ヘリを用いた火口近傍観測システムの開発を進めている.産業用無人ヘリを火山観測に利用するため,様々な火山での飛行実績を積むとともに,観測に必要な様々な周辺機器,静止画・動画撮影用の機器を搭載するための専用雲台,地震計やGPS観測装置をヘリから降下設置するウインチ,無人ヘリ設置用の地震計モジュール,GPSモジュールなどの開発を進めてきた.口之永良部島では2015年4月に火口近傍の4箇所に地震計を設置した.この地震計は2015年5月の噴火で失われたが2015年9月に再度5点を設置した.観測データから2015年5月29日の噴火に先行して火口近傍で地震が急増していたこと,単色地震も増加していたことがわかった.また,可視画像・熱映像・電磁気・ガス等の多項目データから,活動の大きな変化も捉えられた.火口に接近して得られたガスの分析により脱ガス時の見かけ平衡温度が推定された.2016年6月には,火口から1.5km内が警戒範囲となっている西之島において,気象庁と共同で無人ヘリ(船上より離発着および制御)により活動・噴出物の観察および岩石試料の採取を行った.また,2009年から2017年にかけて,桜島山頂付近に地震計およびGPS受信機を設置した.桜島山頂の地震計は2021年2月末時点も稼働を続けている.

無人ヘリによる空中磁気測量も精力的に行っている.2011年霧島新燃岳噴火後の山体の帯磁状態の変化を把握するため,2011年5月,11月,2013年11月,2014年10月,2015年11月,2017年11月,2018年11月の計7回,新燃岳およびその西側,およそ3㎞四方の領域において,繰り返し空中磁気測量を実施した.測線間隔および対地高度はおおよそ100mで一定として測定フライトを実施した.プログラムした航路に沿って正確に測定飛行できることは繰り返し測量にとって大きな利点である.解析の結果,新燃岳火口内の溶岩は平均として4.0 A/m帯磁したと想定すると観測された全磁力データをよく説明することが判り,火口に蓄積された溶岩が熱拡散過程で順調に冷却している様子を明確にとらえることに成功した.また,三宅島においては,今後の火山活動を把握するための基礎資料とするために無人ヘリを用いた詳細な空中磁気測量を2014年5月と2016年11月に実施し,2017年度に解析を進めた結果,山体北側で負,南側で正の変化を検出した.その後,2019年6月にも実施している.2018年1月 に噴火した草津白根山・本白根山においても無人ヘリによる空中磁気測量を実施し,過去有人機により得られたデータとの比較解析を進めている.
伊豆大島カルデラ内で実施した無人ヘリ空中磁気測量のよる磁化構造推定を行った結果,1986年噴火B火口列下は低磁化であった一方,A火口列を挟んだ北東ー南西の走向に高磁化の領域が検出された.前者は噴出により磁化を失った,あるいは,残留している未噴出物があるとみられる.後者は未噴出マグマが浅部で固化したものと考えられ,これは1986年B火口列噴火と同様式の噴火を将来引き起こす可能性を内在していることを示唆するものであり,今後の活動推移を見極めるための重要な情報となった.

電動モーターを動力源とするいわゆる「ドローン」の性能が近年大幅に向上し,火山観測において活用できるレベルに達しつつある.火山センターではドローンを活用した火山観測も進めている.新燃岳においては,ドローンによる火口内への接近撮影を実施し,西之島においては船上から飛ばしたドローンによる画像撮影と試料採取を実施した.霧島山・硫黄山ではドローンによる繰り返し空中磁気測量の活用実験を開始し,2019年に複数回の測定を実施した.その結果,無人ヘリよりも低廉かつ機動的に観測を実施できることが確認できた.これを受けて,三宅島においてもドローンによる空中磁気測量を実施した.磁化構造推定を行った結果,2000年カルデラ縁のみが極めて弱磁化であることがわかった.これは2000年噴火時にカルデラがその形状を保ったままピストン状に沈降したことで,カルデラ縁のみが磁化を失ったと考えられる.また,磁化の時間変化の検出に成功し,火口縁および南側主火口とスオウ穴火口下が消磁傾向を示していることがわかった.このことは火口縁および火口下のクラックにより熱量が効率的に上方へ輸送されたことを示しており,次期噴火活動もこの弱点を通じて起こる可能性が高いと考えられる.

無人ヘリは広域をカバーする測量に適しているが,経費や機動性にやや問題がある.一方,電動ドローンの飛行性能は年々向上しており,観測対象によっては無人ヘリに置き換える観測手段となり得る.今後は,観測対象に応じて両者を使い分けることになろう.

(3)衛星技術を活用した火山活動の把握

ひまわり8号とJAXAのしきさい(GCOM-C/SGLI)の赤外画像を用いてアジア太平洋域の主要活火山のリアルタイム観測を行うと共に,これを基盤データとし各種高分解能画像・現地観測データ等を組合せ,噴火推移・噴火プロセス解明に関する研究を進めている.この一環として,高頻度観測が可能なひまわり8号の熱異常データを用いた噴出率推定方法の開発を行った.ひまわり8号の1.6-㎛画像での熱異常と噴出率の関係を検討し,両者の間に高い相関関係があり,この回帰式が,Y = 0.47 X(Y:噴出率 106 m3 day-1 ,X:輝度値 106 W m-2 sr-1 m-1 )と求められることを示した.この式を用いて,西之島2019-2020年噴火初期の噴出率を推定し,この時の噴出率は2013-2015年西之島噴火における平均噴出率より2-3倍高かったことを明らかにした.一方,しきさいのSGLI画像は分解能が250 mと比較的高く,溶岩流の拡大や火砕流の発生等,噴火状況の変化を高頻度で捉えることができる.このSGLI画像により,カムチャッカ半島に位置するシベルチ火山の2019年噴火の観測を行い,溶岩ドームの成長率が低い状態から急上昇する時,火砕流が発生していることを見出した.また,ジャワ島東端部にあるイジェン火山の火口湖の観測を行い,2019年5月中旬から6月にかけて湖水温が最高38℃まで上昇し,火山下のマグマあるいは熱水活動が活発化した可能性を示した.

Sentinel-5 Precursor搭載のTROPOMIを用いたSO2放出率の推定手法の開発を行った.この衛星は極軌道を周回しており,1日1回程度の頻度で大気中のSO2鉛直カラム量分布のデータが提供されている.このデータに,気象モデルの風向風速の解析値から推定される噴煙の輸送距離・輸送時間を合わせることで,放出率を推定するプログラムを開発した.この手法を,福徳岡ノ場2021年噴火や西之島の2021年噴火以降の活動に適用し,活動状況の把握を試みた.福徳岡ノ場2021年噴火では,初期の継続した噴煙活動のフェーズとその後のスルツェイ式噴火のフェーズで,SO2放出率は10,000 ton/day以上,最大75,000 ton/day程度だったものが,1,000 ton/day以下に急激に減少していく変動を把握した.西之島では2021年8月以降,検出限界(100 ton/day)以下から1,000 ton/day程度の値で増減を繰り返しながら推移していたが,2022年7月下旬より徐々に増加し,9月には3,000–5,000 ton/day程度に達した.10月の噴火時には,日平均で最大16,000 ton/day程度の値を記録した.噴火終了後も11月までは2,000 ton/day程度の値を維持している.今後,この手法を自動化し,上記アジア太平洋域のリアルタイム観測システムに組み込むことを行う.