3.10.2 東北沖および関東地方での浅部スラブからの脱水と地震活動

機械学習およびS-netを用いて得られた東日本の新しい地震カタログについて解析を進めた.海域において深さの精度が改善されたこのカタログを活用し,プレート境界の位置を基準に上盤地震・プレート境界の繰り返し地震・スラブ地殻の3つのカテゴリの地震に分けて地震の空間分布を調査した.その結果,東北・北海道沖の海溝から160-200km,プレート境界の深さ35-50km付近に,帯状に上記の3つのカテゴリの地震全てが集中している領域があることがわかった.この鉛直の地震活動集中域は,プレート境界での温度が200-350℃付近に位置しており,スラブ地殻からの脱水により生じていると考えられる.スラブ地殻から供給される流体が,上盤に抜けていることにより,それよりも浅部のプレート境界では比較的流体圧が低く,固着が強いため大地震の主要なすべり域となっていると考えられる.また,フィリピン海プレートの存在により,低温環境にある関東地方においてはこの流体供給は内陸にシフトしており,首都直下での活発な地震活動および,フィリピン海プレート上での1923年関東地震のすべり域と房総スロースリップイベントの棲み分けを生じさせていると考えられる.