三宅島では2012年と2019年にMagnetotelluric (MT)法による比抵抗構造調査が行われ,前者についてはすでにGresse et al. (2021)により解析済みであるが,後者については未解析であった.本研究ではより詳細なマグマ熱水系構造やその時間変化を議論するべく,これまで未解析であった2019年データについても解析を行い,2012年応答関数との比較やより高精度な3次元比抵抗構造推定を試みた.
はじめに各観測点(図3.10.1A)の時系列データから周波数領域のMT応答関数を算出した.phase tensor (Caldwell et al. 2004),impedance phaseの2種類の応答関数について2012年データと2019年データの比較を行ったが,全周波数領域わたり両観測間で目立った差は見られなかった.そこで2019年の応答関数に加えて2012年の一部観測点の応答関数も構造解析に利用することとした.
比抵抗構造の推定には,Usui (2015), Usui et al. (2017)による有限要素法の3次元インバージョンコードであるFEMTICを使用した.得られた3次元比抵抗構造モデルはGresse et al. (2021)に比べてより深部に感度をもつ.NE-SW断面(図3.10.1B)の浅部(<1km)に見られるように,山麓部では海水の浸透を示唆する顕著な低比抵抗領域(C1)がイメージされた.C1は海岸線付近に集中して存在しており,島内全域の地下にC1がイメージされた先行研究の構造とは異なっている.カルデラ直下には表層から深さ4kmまで鉛直状に伸びるもう一つの顕著な低比抵抗領域(C2)がイメージされた.C2の下部は,地球物理学的研究(e.g., Sakai et al., 2001)や岩石学的研究(e.g., Amma-Miyasaka and Nakagawa, 2003)から予想される浅部マグマ溜まり(深さ3-5km; 図3.10.1B)と重なる.感度解析の結果,浅部マグマ溜まり周辺の比抵抗値の範囲は2-6Ωmと求まった.新澪期の噴出物の平均的な組成のマグマを仮定し,この比抵抗値を再現しうる岩石メルトの存在度を見積もると10-30 vol%となる.C2の中心はこの上部に存在していることから,この低比抵抗領域は浅部マグマ溜まりもしくは地表へと上昇するマグマから放出された揮発性成分が濃集し,形成された火山性流体の存在領域と考えられる.