3.10.4 海域地震観測システムの開発

レイリー散乱光を用い,光ファイバーを振動センサーとして利用する分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年地震学の分野において急速に利用されはじめている.DASは,片端にある計測器から光パルスを出力し,光ファイバー内からの後方散乱光を計測することで,光ファイバー内のケーブル方向のひずみを高空間密度で取得することができる.本方式の計測上の特徴の一つとして,センサー部への電源供給が不要で,故障への耐性が高いことがあげられる.これはアクセスが困難な海域における観測用途として,優れた方式と考えられる.

地震研究所は,海底に設置した地震計・圧力計との通信目的で,伊東半島東方沖,三陸沖,日本海粟島沖に海底光ファイバーケーブルを所有している.このうち,予備のため未使用で光信号が通っていない芯線のある三陸沖ケーブルシステムを利用し,2019年からDASをもちいたキャンペーン観測を都度実施してきた.2022年には三陸沖の観測と並行して,伊豆半島東方沖および日本海粟島沖におけるDAS実施の検討を行い,実効性の観点から,日本海粟島沖で試験観測を行うための調査を開始している.この調査結果を踏まえ,2023年4月3日~6日にかけて,粟島沖におけるDAS計測を実施し,同海域においてDASデータをはじめて取得することに成功した.さらに同年9月5日,品質向上のため,海底ケーブル側の光コネクタ交換を行い,翌日にかけて断続的に試験データを再取得することができた.これらの観測実験を通じて海域計測システムの高度化をはかるとともに,日本海粟島沖における地震モニタリング技術向上を目指した研究を進めている.