前年度、多相固相系のクリープと粒成長は同じメカニズムで進むと予想し、実験的にそれを実証した(Okamoto & Hiraga, 2022 JGR)。今年度は、その事実を用いて下部マントル粘性率推定を行った(Okamoto & Hiraga, 投稿中)。マントル物質が下降する際、深さ660 kmでの相転移によって、粒径が実質ゼロにリセットされる。その後、粒成長が開始し、それが対流する期間継続するとした。これまで報告されたブリッジマナイトおよびポストペロブスカイト相中の自己拡散係数および拡散パラメータをまとめ、下部マントルの温度・圧力条件下で深度と共に変化する拡散係数を得た。その拡散係数、粒成長則および拡散クリープ則を用いて計算された粒径および粘性率を求めた。結果は以下のとおりである。深さ660 kmを下方通過後、ブリッジマナイト安定深度域内を下降するマントル内でほぼ一定となる粒径に直ちに到達する。ブリッジマナイトからポストペロブスカイトへの相転移直後にも急激な粒成長が生じる。コアからの熱供給により高温な下部マントル底部をマントル物質が水平方向に移動する期間も粒成長が継続する。マントル上昇(湧昇)に転じるまでに粒径は~10 mmに達し、そのサイズは上昇流中さらなる粒成長が生じえないほど十分に大きい。得られた粒径および拡散係数より、マントル対流時の深度と共に変化する粘性率を得た。マントル下降流および上昇流の温度差が小さい場合には、下降マントルが細粒であるために上昇マントルと比べ低粘性になりうる。地球物理学的に推定されるブリッジマナイト安定域での深度ともに1021から1023 Pa·sと変化する粘性率、ポストペロブスカイト安定深度域で推定される1016から1020 Pa·sの低粘性率がよく再現された。