3.3.2 浅部マグマ活動に関する研究

浅部マグマ活動に関する研究では,マグマ活動の実体を明らかにすることを目標に,化学組成,含水量測定や組織観察を中心とした火山噴出物の解析を行なっている.マグマ中の含水量は火山噴火のポテンシャルとして重要であり,噴火に到る準備過程を理解する上でマグマ中の含水量変化を明らかにする意義は大きい.また,含水量を適切に評価することによって,斑晶鉱物やマグマの液組成を用いた熱力学的温度圧力計の精度向上も期待できる.斑晶の組成累帯構造や石基組織の観察からは,噴火に伴うマグマの運動についての情報が得られる.これらの情報を総合して,火山噴火の前駆現象の解明に取り組んでいる.

2023年度は火山噴火予知研究センター,山梨県富士山科学研究所,常葉大学,静岡大学,鹿児島大学,防災科研との共同研究を実施し,西之島,諏訪之瀬島,伊豆大島,富士山,霧島, 桜島, 硫黄島など,いくつかの活動的火山について噴火前のマグマの状態を検討した.加えて,受託研究「次世代火山研究推進プロジェクト」の一環として,火山噴出物の分析・解析プラットホームの構築を進めている.これは,膨大な量の火山噴出物を高精度かつ高効率に解析可能にするとともに,火山噴出物解析の自動化と分析結果のデータベース化によって火山噴火の推移予測に資することを狙っており,取得したデータを用いて,マグマ供給系の時代変化の検討や様々な火山のマグマ供給系の類型化を進めている.

一例を挙げると,マグマ供給系の類型化の一つとして,上昇するマグマの挙動をマグマ上昇開始の要因が,「マグマ注入による過剰圧獲得の場合」と「マグマの分化による浮力の獲得の場合」について,富士山のマグマ供給系についてのデータをもとに数値計算を使って考察した.マグマ注入による過剰圧獲得から噴火に到る場合には,上昇途中の火道の経路が噴火するか否かを強くコントロールするとともに噴火未遂が発生する可能性も高い.一方,マグマが分化して浮力を獲得した場合,とりわけ,マグマの含水量が高い場合には,上昇経路形成による過剰圧の消費がマグマの体積膨張の効果で緩和されるため,マグマの上昇が妨げられることなく最終的な噴火に到りやすい.こうした検討結果と実際の富士山での火山活動がうまく対応するかについて,現在は噴出量階段ダイアグラムと噴出物組成の定量的解釈を行なっている.