(a)長野県松代における精密重力観測
長野県松代において,超伝導重力計を用いた重力連続観測を継続している.2022年からは,2台の超伝導重力計(CT #036およびiGrav #028)による並行観測を行なっている.それに加えて,絶対重力計による測定を繰り返し実施し,超伝導重力計のドリフトと感度を精密に検定する作業を行なっている.これらの測定および観測により,松代における長期的な重力変化の詳細な特徴が明らかになってきた.松代では,2011年3月11日東北地方太平洋沖地震の直後には非常に大きなレートで重力が減少していたが,そうした変動が徐々におさまりつつあることがわかった.このことは,巨大地震発生後の粘弾性緩和のプロセスが現れているものと考えられ,それを定量的に解釈するモデルの構築を試みている.
(b)富士山における重力測定
富士山の山麓および中腹において,絶対重力測定を実施し,重力差を精密に決定した.これにより,約300mGalの重力差をわずか30分で移動できるという,可搬型相対重力計のための理想的な検定ラインを構築した.このキャンペーンには多数の機関と多くの相対重力計が参加しており,相対重力計の感度検定結果について解析を進めている.また,2022年の測定と2023年の測定とでは絶対重力値が有意に異なっており,この変化の原因を調べるために今後の追跡調査を計画している.2023年には,やや離れた山梨県都留市内にも基準点を新設して初回の測定を実施し,検定ラインをさらに拡充した.
(c)伊豆大島における重力測定
近年の伊豆大島は約1~2年周期の短期的な膨張・収縮を繰り返しながら,長期的には膨張傾向にある.地震研は,1998年頃から断続的に絶対重力計と相対重力計を組み合わせたハイブリッド観測を行ってきた.2023年度は11月に,麓の伊豆大島火山観測所と山頂付近の局舎において絶対重力観測を実行した.また,重力変動のデータに加えて,GNSSによる地殻変動のデータ,降雨量のデータを組み合わせたモデル化を行うことで,膨張源での質量増加を推定することに成功した.
(d)桜島における重力測定
地震研は,絶対重力計を用いた桜島での連続測定を2008年頃から続けてきた.絶対重力計は,京都大学防災研究所と国土交通省大隅河川国道事務所の協力の下,桜島南麓にある有村観測坑道の入り口付近に設置されてきた.2023年度は10月に絶対重力観測を実行した.2017年頃からのデータを集計すると,約3.4マイクロガル/年の重力増加が継続していることが分かった.この重力増加傾向は,マグマだまりの膨張・収縮といった力学的過程を考慮するだけでは説明できない.そのため,重力観測はマグマの脱ガスに伴う密度増加などの物性的過程をとらえている可能性があり,検討を続けている.
(e)重力測定・観測技術の研究
絶対重力測定および超伝導重力計観測の技術的側面についての研究を行なっている.具体的には,絶対重力計の器差の検定,絶対重力計を用いた重力鉛直勾配の測定,絶対重力測定に基づく超伝導重力計の感度検定について,論文にまとめた.