(a)粉体層の摩擦強度に対する圧密効果と時間効果
有効法線応力以外で断層の摩擦強度を変化させる要因としては,時間とともに断層面の真実接触部の固着が強固になるエージング効果が有名で,我々は,その強度変化が断層面の音波透過率でモニタできることを示してきた.いっぽう,天然の断層でよく観察されるように,断層面が粉体層を挟んでいる場合には,鉱物粒子の幾何学配置が変化し,剪断力を支える粉体層内の巨視的な骨組構造が変化することで大きな強度の変動がおきる.気象大と共同して,両者の強度変化メカニズムに対応する音波透過率の変化を区別する実験に成功し,断層全体の強度は,両者のメカニズムのうちの強い方で決まっていることを見出した.今年度は,熱水条件下で同様の実験を行うための実験装置の整備を進めた.また,京都大学と協力して,軟鉱物である蛍石の直接接触と粉体層剪断での動摩擦強度が,どちらもバヤリー則程度であることを見出した.
(b)高温・高圧での岩石の性質に関する研究
沈み込み帯深部のような熱水条件で期待される脆性-延性遷移領域では,岩石強度に対する有効封圧則の適用について,真実接触面積の割合が大きいため,間隙圧による機械的拘束の減少が中途半端にしか働かなくなるという説と,脆性域と同様に間隙圧の効果がフルに適用できるという説がある.この点を明らかにするために,メリーランド大学と協力して,軟らかい多孔性堆積岩であるSolnhofen石灰岩のインタクト試料を用い,これまでに実験データのない高封圧(Pc = 360MPa)・高間隙圧(Pf = 340, 350, 360MPa)での高温(400, 500℃)変形試験を地震研の三軸試験機で行った.このような高温・高封圧かつそれに近い高間隙圧が働いている環境は,深部スロー地震ゾーンで期待されるものである.載荷歪み速度と有効封圧(= 封圧 – 間隙圧)に応じて,巨視的な脆性破断を伴う変形から,延性変形までが系統的に生じること,有効圧1MPaの増加あたり2MPaのペースで強度が高くなることなどが確認された.また,熱水下の断層でガウジや堆積物が固結してゆくプロセスを長時間観察するための実験手法開発を行っている.
(c) 地震波到達前の重力信号の研究
巨大地震などでは断層運動に伴う震源の質量移動と,物質の粗密を伴う地震波の広がりにより,重力場が時間・空間変動する.地震波の到達よりも前に微弱な重力場の変化が計測され,理論的な予測と比較検証されるようになった.究極の地震早期検知手法として,地震波到達前の重力信号を地震波解析し,地震の発生位置や時刻,マグニチュードや発震機構解を求める手法を開発している.
(d) 地形効果を加味した地殻変動・重力変動の理論計算
マグマだまりの膨張・収縮にともなう地殻変動や重力変動をモデル化する際,半無限媒体における点圧力源の変形場(茂木モデル)が頻繁に用いられてきた.しかし,半無限モデルでは地表面の起伏がもたらす効果が考慮されていないため,地形起伏を円錐形で近似した場合の変形場の準解析解を構築することに取り組んでいる.特に2023年度は,変形がもたらす重力変化の効果を評価する方法を確立した.応用例として,海底火山直下へのマグマ蓄積がもたらす重力変動が海水面上で検出できるかどうかの理論計算を行った.