(a)長基線レーザー伸縮計の開発(観測開発基盤センターと兼務)
地震研では高精度のひずみ観測を可能にするレーザー伸縮計のネットワークを展開している.その中心として,神岡地下の重力波検出器KAGRAに併設して建設した全長1.5 kmの基線をもつレーザー伸縮計と,近接する神岡鉱山内で100 mのレーザー伸縮計を運用して観測を行っている.1.5 kmレーザー伸縮計については観測状態でのレーザー周波数安定度の評価を行い最高で10–13オーダーの分解能を実現していることを確認している.本年度は定常的な観測を継続した.100 m伸縮計については,設置場所である地下実験室の空調が更新されたことに伴うレーザーの周波数安定化制御の不調について原因調査と対策を継続している.
2022年以降発生している能登群発地震について,多くのイベントを神岡のレーザー伸縮計で観測している.このうち,2023年5月5日14:42に能登半島沖で発生した地震(Mw6.2)では,神岡坑内で潮汐ひずみの約10倍にあたる7.4×10–7 ppの大振幅ひずみが発生したが,飽和することなく連続波形を記録することに成功した.また地震前後に約4×10–10のひずみステップ(伸び)が観測された.これは気象庁の震源モデルから予想される理論値(約7.6×10–10の伸び)と整合的なオーダーと方向であった.
2024年1月1日の能登半島地震については,1.5 kmレーザー伸縮計で前震はクリアに観測できたものの,本震(16:10, Mw7.5)の際に光軸が激しく揺れたため干渉縞が得られず観測が中断した.翌日にはずれた光軸を遠隔操作で調整し直して観測を再開,継続している.100 m伸縮計は地震発生時にレーザー制御の不調から観測が行えなかった.従来,復旧のために現地作業が必要であったが,今回の地震を機に100 m伸縮計の光学系の一部を入れ替えて遠隔操作で復旧できるように改良した.これにより観測の連続性やデータの品質向上が期待できる.