(1)内陸地震発生域における不均質構造と応力の蓄積・集中過程の解明
(1-1)2011年東北地方太平洋沖地震にともなう地殻応答
内陸地震発生メカニズムを解明することは,災害を軽減するために非常に重要な課題である.内陸地震のメカニズムを理解するためには,断層への応力集中とひずみの蓄積について理解することが重要である.また,内陸地震発生には地殻内流体の存在が大きく関係していることがわかってきている.そのような地殻内流体が,島弧のシステムの中でどのように生成され,移動し断層近傍に存在するのかについて理解することは重要な研究課題である.電磁気学的手法によって求められた島弧断面の比抵抗構造と,レシーバ関数解析で得られた地震学的構造との比較検討を行い,島弧構造について明らかにし,地殻内流体の理解を深めることを目的として研究を行った.いわきの地震活動域南部から新潟に延びる測線において電磁気学的構造を明らかにするため,複数の測線を用いた3次元解析を行った.その結果,明瞭な比抵抗構造が得られ,那須岳や高原山等火山の周囲の低比抵抗域や,沈み込む太平洋プレートを表しているものと考えられる高比抵抗域が見られ,火山の下に上部マントルから地殻に続き明瞭な低比抵抗域が見られた.さらに,気象庁が決めた震源データと,臼田・他(2022)で求められた地殻内反射面の空間的分布を比較することにより,地震活動の時間的推移と反射面との関係を調べた.時間的推移の特徴や周囲の地震活動との関係についての知見を得ることができた.これら低比抵抗体や地震活動の時空間分布・地震波反射面と地殻流体との関係を明らかにすることによって,地震発生につながる内陸地震発生ポテンシャルの解明を目指している.
(2)プレート境界域における不均質構造と地震活動の解明
(2-1)相似地震研究
ほぼ同じ場所ですべりが繰り返し発生する相似地震は,断層面のすべりの状態を示す指標として注目されている.また,地震の再来特性を考える上で重要な地震である.そこで,日本列島全域に展開されているテレメータ地震観測点で観測された地震波形記録を用いて,日本列島周辺および世界で発生している小規模~中規模相似地震の検出を継続的に行い,相似地震カタログを作成している.その結果,長期間にわたって繰り返す相似地震群の多くは,沈み込むプレートの上部境界周辺で発生していることが明らかとなった.そこで,相似地震とその周辺で発生する地震活動を用いて,プレート間すべり速度変化の短期的・局所的な時空間変化の推定を試みた.2011年東北地方太平洋沖地震の大すべり域周辺において非地震性すべりの時間変化を調べたところ,宮城県北部では現在も余効すべりが継続していることが確認された.一方,その他の地域では,その後数年の間にほぼ収束していた.宮城・福島県沖では2021年以降M6,M7クラスの地震が複数個発生している.そのうち,スラブ内で発生した地震の余震中にも短期で繰り返す相似地震活動が確認された.そこで,スラブ内地震の影響を避けるよう繰り返し地震とその周辺で発生する地震活動を選択使用し,プレート間非地震性すべりの時空間変化の推定を試みた.その結果,この地域で発生したいずれの大地震発生後においてもプレート間非地震性すべりの加速が見られた.スラブ内大地震の発生によりプレート間の応力が増加してプレート間非地震性すべりが生じ,また,プレート間のすべりに寄る応力増加がスラブ内のダウンディップコンプレッション型地震の発生を促した可能性を示唆している.