3.5.8 Slow-to-Fast 地震学プロジェクト:情報科学と地球物理学の融合によるSlow-to-Fast地震現象の包括的理解

科学研究費・学術変革領域研究(A) 「Slow-to-Fast 地震学」プロジェクトの活動を継続した.地震研では,全国11の大学・研究機関に所属する情報科学と地球物理学の若手研究者を中心に,データに潜む Slow・Fast 地震のシグナル検出や活動様式・震源特性の解明や,Slow・Fast 地震のモニタリング手法の刷新,Slow・Fast 地震の統計科学的・地球物理学的性質を明らかにするための研究を推進している.

 南海トラフ沈み込み帯の深部低周波地震(LFE)の長期的な挙動に関する理解を深めるために,先行研究(Kato and Nakagawa 2020)によって構築された低周波地震カタログのアップデートを行った.その結果,長期的SSEの規模が大きいほどLFEの活動度も高くなる傾向が見い出された.また,2011年東北地方太平洋沖地震以降,走行方向に四国全体を横断する主要なLFE活動が継続して発生しており,プレート境界の状態が変化した可能性が示唆される.紀伊半島で発生しているLFEとスラブ内地震の波形を比較分析することで,低周波に卓越するLFEの波形の特徴がプレート境界周辺域の特殊な減衰構造等に寄与するのではなく,スローな震源過程を反映していることを実証した(Wang et al. 2023).

 2020年3月末から半年以上にわたって,岐阜・長野県境付近において群発地震活動が発生した.機械学習モデルによる地震波の読み取りや震源再決定,テンプレートマッチング法を適用することで,約20万個のイベントから成る包括的な地震カタログを構築した.群発地震は主に東西走向もしくは北西-南東走向の高角傾斜の多数の断層面に分布し,活動域は南側から北側へと徐々に拡大した.また,活動域の拡大フロントの移動速度は約10~150 km/日であり,沈み込み帯で見られるスロー地震の移動速度と類似する.流体に駆動されたスロースリップが群発地震の発生に関与している可能性が考えられる.