(1)地震・電磁気・測地観測網(海半球観測ネットワーク)の展開・維持
(1-1)海洋島地震観測網
ジャヤプラ(インドネシア),パラパト(インドネシア),デジャン(韓国),ポナペ(ミクロネシア),マジュロ(ミクロネシア),犬山(日本),石垣(日本),パラオ(パラオ),バギオ(フィリッピン),父島(日本),カメンスコエ(ロシア),サパ(ベトナム),ハイフォン(ベトナム),ビン(ベトナム)の9ヵ国14定常観測点における観測を, 海洋研究開発機構と共同で継続した.このうちマジュロ(ミクロネシア),父島(日本),カメンスコエ(ロシア)を除く11観測点からはリアルタイムで地震波形データを収集した.
(1-2)海洋島電磁気観測網
ポナペ(ミクロネシア連邦),アテーレ(トンガ王国),モンテンルパ(フィリピン),カンチャナブリ(タイ),ワンカイヨ(ペルー),南鳥島の各観測点における地磁気3成分と全磁力の観測を海洋研究開発機構と共同で継続した.地磁気三成分確定値を用いた国際標準地球磁場モデル(2020年DGRF)作成のための準備を行った. 2022年1月15日に発生したフンガ・トンガ=フンガ・ハアパイ火山の大規模噴火に伴うアテーレ観測点の磁場変化に,電離圏起源と考えられる2時間程度の磁場変化が見られることを見出した.この変化はアピア(サモア)におけるインターマグネット地磁気観測点においても確認でき,これらを用いて大規模噴火に伴う電離圏内電流の変化に関する研究を開始した.また,2021 年までの観測値の公開準備を行った.
(1-3)海底ケーブルネットワークによる電位差観測
フィリピン-グアム,二宮沖-グアム(TPC-1),グアム-沖縄(TPC-2),上海沖-苓北(上海ケーブル)の海底ケーブルについて電位差観測を継続し,これらの電位差に含まれる長期変動成分の解析を継続して行った.電位差成分の永年変動(時間1階微分)と,短期主磁場変動の地磁気ジャークや海流変動との関連の調査を継続した.また,電位差変動から地下電気伝導度構造の推定を目的として,電磁誘導数値モデリング手法の開発も継続して行なった.
(2)海半球観測網を補完する長期アレイ観測
(2-1)海底地震観測
海底観測網直下の構造を浅部から深部まで決定する「広帯域海底地震探査」の手法開発を継続して行った.周期3–30秒においては地震波干渉法を,周期30–100秒においては遠地地震のアレイ解析手法をもちいることで,地震波異方性も含めた深さ10–150 kmの構造の定量的な議論が,浅部の構造を仮定せずに行うことが可能となった.また,位相速度測定が困難であった海洋底を伝播する Love波の新たな測定手法を開発し,実用的な精度でのLove波の基本モード位相速度の測定を実現させた.
海底広帯域地震計の高度化するため微差圧計を追加し,Oldest-1アレイ観測より標準仕様として使用している.この追加により,傾斜ノイズ除去に加え,海中重力波起源のノイズを除去することで,30以上の長周期上下動成分のノイズレベルを最大20dB低減できるようになった.
本センターが実施した海底地震観測の記録は,2014-2016年に観測を実施したオントンジャワ・アレイまでの記録がOHPデータセンターより公開済みである.本年はOldest-1アレイ観測記録・チリ三重会合点での観測記録を新たに公開した.
(2-2)海底電磁気観測
三陸沖日本海溝では,太平洋プレートの沈み込みに伴う変遷と地震発生との関連を電磁気学的手法と熱学的手法で解明することを目的とした研究を,2007年よりJAMSTECと共同で進めた.またこの海域での観測は,2009年度以降は,「地殻流体」計画の一環として継続している.2012年度までに海溝軸を横切る複数の測線上の合計31観測点でデータを取得し,2次元構造解析を進めている.なお,本研究で2010年に設置したOBEMは,2011年3月11日の東北沖地震に伴って生じた大津波によって誘導された磁場変動を記録しており,巨大振幅津波の波源域推定に貢献した(Ichihara et al., 2013, Earth Planet. Sci. Lett.).東北地震の震源域および日本海溝を横断する2次元電気伝導度構造を推定したところ,太平洋プレートと上盤プレートの境界面付近の構造に注目すると,沈み込み直後の境界面近傍に顕著な高電気伝導度領域が存在すること,深部に移動すると低電気伝導度に遷移することをが明らかとなった.これは,含水率の違いを反映していると解釈でき,2011年の東北太平洋沖地震の断層破壊が海溝付近まで伝搬したことに影響していると推察される(Ichihara et al., 2023).更に2013年4月から8月にかけて,新潟・秋田県沖日本海でも6台のOBEMを用いた観測を行った.同時に周辺の島で観測したデータ,過去に秋田県沖日本海で取得したデータを加えて3次元解析が進行中である.これらの観測データを統合的に解析し,最終的には日本海溝から日本海にかけての島弧断面の電気伝導度構造を明らかにすることを目指している.
観測開発基盤センターと共同し,ニュージーランド北島ヒクランギ沈み込み帯で繰り返し観測されるスロースリップイベントに伴う電気的な構造変化の抽出を目的とした,長期の海底電磁気観測を開始した.この観測のためにOBEMに新たな計測モードを追加し,また電池用耐圧容器を大きくして,電位差計測をハイサンプリングで1年間継続できる仕様に改造した.改良したOBEM3台を,定期的にスロースリップイベントが観測されている海溝陸側斜面に設置して,2023年11月より計測を開始している.2024年秋にこれらのOBEMを回収し,電池を詰め替えたのちに再設置して,更に1年間観測を継続することを計画している.
(3)海半球ネットワークデータの編集・公開
Boulder Real Time Technologies社のAntelopeというソフトウェアを用い,オーストラリア地質調査所,台湾中央研究院地球化学研究所,及びIRISとリアルタイムデータ交換を継続した.
各種機動観測データの公開を継続した.定常観測点データに関しては,海洋研究開発機構と共同で,広帯域地震データ,GPSデータ,電磁気データの公開を継続した.