(1)噴火のダイナミクスの解明を目指した実験と理論研究
マグマ破砕過程を「粘弾性流体の破壊現象」と位置づけ,定量的モデル化に向けた粘弾性構成方程式の構築と数値計算手法の開発を進めた.単純なマクスウェル型の粘弾性を示す光弾性物質を用いた変形・破壊実験を行い,加速を伴う3次元の変形場の中で,流動から破壊へと遷移する様子を,光弾性を利用した弾性歪の可視化を含めて観察した.また,気泡の膨張に伴う流体の破壊と流動挙動について,この粘弾性流体と降伏強度より小さい応力下で弾性を示すジェル状流体の比較を行った.気泡への気体供給速度を増加すると,粘弾性流体は脆性破壊を生じたが,ジェル状流体は流動速度が増加した.また,それぞれの流体の表面で気泡が破裂するときの音波発生の条件について系統的に実験を行い,制約を与えた.上記の流体のレオロジーと,水蒸気噴火の噴出物である火山泥のレオロジーを比較したところ,火山泥はジェル状流体に近い性質を持っていることが分かった.そこで新たに固体粒子と粘性流体からなる懸濁流のレオロジーおよび破砕過程を調べる実験に着手した.
爆発的な大規模噴火が発生すると,噴出ジェットの反力が「シングルフォース」として地震波を発生し,広域で観測されることがある.このシングルフォースの大きさと噴出率の関係を調べるモデル実験を行い,既存のモデルを修正する必要のあることを示した.
(2)火山噴煙ダイナミクスのシミュレーション研究
爆発的火山噴火で見られる噴煙柱・火砕流の噴煙ダイナミクスと,火山灰輸送・堆積プロセスの解明を目指し,数値モデルの開発とそれを用いた大規模シミュレーション研究を進めている.火山灰は噴煙によって上空へと運ばれ,噴煙から離脱すると大気風によって広範囲に移流・拡散する.そのため,噴煙の上昇・拡大が火山灰輸送を支配する噴煙ダイナミクスとそれに続く大気風による移流拡散,それらの結合が降灰予測のために解明すべき重要な問題となる.噴煙ダイナミクスの問題に関し,様々な噴出条件と大気条件を与えた3次元噴煙シミュレーションを実施した.条件によって噴煙最高高度・噴煙パターン・傘型噴煙拡大率などが変化する様子を捉え,一般的に用いられている簡易な噴煙1次元モデルと比較した.3次元シミュレーションと1次元モデルでは,噴煙最高高度の噴出率依存性が系統的に異なる様子が確認された.
火山灰の移流拡散問題に関しては,火山灰トレーサー計算と噴煙ダイナミクス計算をカップリングした数値シミュレーションを実施した.大気の風速が対流圏圏界面で最高速度を持つような現実的な風速プロファイルを与えたシミュレーションを行った.この計算によって,大気中の火山灰粒子分布や地表での堆積物分布の基礎データを取得することができた.また,噴煙ダイナミクスにおける火砕流粒子の影響を評価するため,固体・気体2相流のモデル開発を進め,火口付近で急減圧する領域では含まれる火砕物の粒径と体積分率によって流速が変化することを捉えた.
(3)超巨大噴火に関する研究
南九州鬼界カルデラの活動履歴や7.3 ka鬼界アカホヤ噴火の推移を解明するための研究を進めている.とくに従来アカホヤ噴火の前駆的活動により形成された可能性が指摘されていた長浜溶岩(流紋岩質溶岩)やそれ以前の活動の実態を明らかにするために,2018年にボーリング掘削を実施した.それにより得られた試料の解析を進めた結果,長浜溶岩は深度11-190 m(水深130 mに相当)に存在し,その直下の深度190-230 mには貝殻を含む粗粒砂質層や複数枚のテフラ層を主体とした海成の地層が存在することがわかった.長浜溶岩直下の砂層に含まれる複数の貝殻の14C年代測定を行ったところ,7000〜8300 calBPの年代値が得られた.これにより,長浜溶岩の活動が鬼界アカホヤ噴火に先行する活動であったことがはじめて地質学的・年代学的に明らかになった.長浜溶岩およびその下位のテフラ層(12-15 ka)とアカホヤ噴火の岩石学的関係,大規模噴火に先行する溶岩流活動の役割など,巨大噴火を起こしたマグマシステムとその進化について研究を進めている.また,アカホヤ噴火前半のプリニー式噴火フェーズの層序の細分化を行うことで,従来よりも詳細な噴火推移と噴出率の変遷が明らかになった.