(1)ウェブサイト
地震研究所の公式ウェブサイトは,社会への情報提供のための重要なツールである.広報アウトリーチ室ではこれまで,ニューストピックス,地震・火山情報の発信などを整備し,運営・管理を行ってきた.2013年度以降は,所の最新の研究活動をより広く知って貰うため,最近の研究を紹介する欄を設け,研究成果として論文に公表された内容を一般の方にも判るような解説を付けてウェブサイトにアップするコーナーを立ち上げた.また,2014年11月にサイトを大幅にリニューアルして,よりシンプルなトップページと整理された階層構造を整えて,ウェブサイトによる情報発信の強化を図った.さらに2021年には,ウエブアクセシビリティ等に配慮した新たなウェブサイトへの移行を開始し,2022年に一応完成した.
地震研究所の最新の研究活動に関する情報を掲載するウェブサイトの維持管理と情報発信に務めるとともに,大規模な地震・火山活動時には,国内外を問わず,すみやかに地震・火山情報のページを設け,地震研究所の観測・研究情報や解説記事などを迅速に提供している.トップページには,所員が出版した最新の論文についての解説を「最近の研究から」として掲載し,順次入れ替えを行っている.また,「お知らせ」「シンポジウム」「受賞」等の情報の掲載を頻繁に行い,所内外への広報アウトリーチ活動を遅滞なく進めた.
2023年は大正関東地震発生から100年となることから,特設サイトを立ち上げ,関連行事の案内,地震研に保管する波形記録や地震計,記念グッズなどを紹介している.
(2)印刷物・グッズ
所内研究者の研究や所外研究者との共同研究の成果を公表・発信するために,広報誌・要覧などの印刷物を出版するとともに,ウェブサイトで公開している.
広報誌は「地震研究所広報」から電子媒体のみの「地震研究所ニュースレター」(2005 年より 30 回発行) を経て,2008 年より紙媒体の広報誌「ニュースレター Plus」を発行している.4ページのコンパクトな紙面に,特集記事とトピックスを一般の読者を意識して分かりやすく解説するよう努め,学内・行政・審議会・メディア等の関係者や地球科学関係の学科等がある大学や首都圏の高校,図書館等に送付するほか,全構成員,一般公開の参加者や公開講義等でも配布している.執筆・デザインには外部のライターやデザイナーの協力も得て,質の高い広報誌を目指している.2023年には「ニュースレター Plus」を3回(第40-42号)発行し,地震研究所の最新の研究成果を紹介した.
世界及び日本の震源地図は,随時地震活動データを加えた改訂版を作成している.2023年にデータ更新を行い,,鯰絵や要石等をデザインした絵葉書,世界・日本震源地図,地震研パンフレット,震源クリアファイル,,大森式地震研による波形を表面に印刷した防災グッズ(パンの缶詰)を追加で製作した.
これらの配布物は,一般公開・ラボツアー・所内見学に訪れた来場者,学会での出展ブースで来訪者に配布し,地震活動の理解への啓発に向け活用した.波形手ぬぐいとマスキングテープを,東大ショップ(UTCC)にて販売を継続している.また関東地震発生100年に関連して,科学博物館の企画展やKitteでの展示販売を行った.
(3)関連学会へのブース出展
学会に参加する研究者,学生・生徒への普及活動として,これまで日本地球惑星科学連合大会,日本地震学会,国際学会 (EGU,AGU,AOGS,IAVCEI・IASPEI等) に,地震研究所としての展示ブースを出展し,研究所の活動や成果,開発機器等の紹介を務めてきた.2023年は, 5月に開催されたJpGU大会,および10月に開催された地震学会に対面で出展し,地震研の研究活動と共同利用や国際室の各種募集情報を紹介した.2023 EGU Meetingには,国際室との協働により対面で出展(オーストリア・ウイーン)し,地震研究所の教育研究活動の紹介に努めた.
(4)一般公開・公開講義・国際文化交流
地震研究所では,地震や火山の基礎研究,地震火山災害の軽減に関する研究などを直接的に社会に伝達することも重要な責務であり,学生や市民を対象に研究所の一般公開を実施している.2009年までは一般公開に合わせて公開講義を実施してきた.2010年から2013年までは,1月から3月に公開講義を開催したが,2014年からは,一般公開の時期に公開講義を実施している.2023年は,東京大学のオープンキャンパス(オンライン)の日程に合わせて,8月2日に研究活動のWeb展示と,学生実験及び公開講義をライブ配信した.
(5)所外からの問い合わせ・講演依頼等への一元的な対応
社会の関心が高い研究を進めている研究機関として,一般の方からの様々な問い合わせに対応するため,地震研究所ホームページに「問い合わせ」欄を設け,広報アウトリーチ室が窓口となる体制を整えている.また,所外(政府省庁,地方公共団体,防災関係機関,学会,教育委員会,中学・高校)からの講演依頼については,所内の教職員の協力のもと,本務である研究・教育活動に支障がない範囲でできるだけ対応する方針をとっている.2023年には220件の問い合わせがあった(うち取材依頼が162件,講演依頼が23件,見学問い合わせが35件).
(6)見学,ラボツアーの実績
中学生・高校生・大学生・研究者及び地方あるいは国の行政機関,学校教員,関連企業などからの地震研究所の訪問・見学の希望については,できるだけ受け入れる方針で対応している.訪問・見学者に対しては,希望により所内教員の協力を経て地震火山に関する講義を行い,また所内研究施設(海底地震計,首都圏地震観測網,地震計博物館など)の見学(ラボツアー)を実施している.また,国際室と協力して,海外の研究機関や行政機関からの来訪者にも対応している.例年,国内外から50件,人数にして1500名以上の見学・訪問者があるが,コロナ禍の下,講義や施設見学の訪問者の受け入れは停止していた.2023年には,合計で40団体から1766名の見学が行われた.
(7) 報道対応及び報道関係者,防災関係者向けの教育
地震研究所における取り組みを一般に伝えるために,ウェブサイトや印刷物の他に,2012年以降は,報道機関からの取材依頼や問い合わせについても,広報アウトリーチ室が窓口となって一元的に受けつける体制を整備し,対応が可能と思われる適切な教員に受けて貰う形で応えている.また,教員が行った取材対応や講演会等の活動は,所内ページの「アウトリーチ活動報告」フォームから随時報告を受けている.
また,地震・火山の観測計画によっては地元自治体,住民の協力・理解を求めることが必要であり,それらの実施予定や重要な研究成果などについては東京大学本部広報課と緊密な連絡を取りながら,必要に応じてプレスリリースや記者会見等の手段による報道対応を行っている.2023年は8件のプレスリリースを行った(共同リリース含む).
地震研究所の研究活動,研究成果をより的確に社会に伝えるためには,仲介者となる報道や行政機関,教育関係者などとの十分なコミュニケーションが不可欠である.国内外の地震・火山災害の解説や,地震研究所が取組む研究など,話題提供と意見交換を行う場として「地震火山防災関係者との懇談の場」を設けている. 2012年からは,「ニュースレターPlus」で取り上げた話題を報道関係者に掘り下げて詳しく紹介する試みを始めている.2023年は,「ニュースレターPlus」第40,41号の特集記事に関する懇談の場を,オンライン・ハイブリッドにて開催した.また,報道関係者や自治体防災担当者を対象に,地震・火山情報の基礎となる研究と予測の現状について意見交換を図る「地震・火山噴火予測研究のサイエンスカフェ」の第18~22回目を地震火山噴火予知研究協議会に協力してオンライン開催した.2023年9月には,特任専門職員らが電気通信大学にて集中講義「サイエンス・コミュニケーション演習」を2コマ担当した.
(8) 歴史地震ARアプリの製作
「過去の地震・火山噴火をその場で実感してもらう」というコンセプトで,歴史地震AR(拡張現実)アプリを2020年から企画し,2021年以降に製作・改良を続けてきた.今自分がいる場所からスマホをかざすと,周辺で起きた過去の地震・火山噴火等に関する情報がARで表示されるというもので,一般の方・生徒・研究者に,今立っている場所で地震・火山噴火・津波等が昔から起きていることを,ARを通して実感してもらうものである.2023年をもって一応の完成とした.iOSに限定であるが,東京(江戸)や京都などの地震関連の古文書の情報,国土地理院が公開している伝承碑の情報などが実装されている.さらに利用するユーザーからの投稿を受け付ける機能を持たせたことで,双方向・自律的な活用を目指す.