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3.10 Coordination Center for Prediction Research of Earthquakes and Volcanic Eruptions

3.10.6 1964年新潟地震60周年に向けた広報活動

発生から間もなく60年になる1964年6月16日新潟地震に関する解説記事を地震学会の広報誌「ないふる」に掲載した.概要は以下の通り.

新潟地震では,それまでに知られていなかったタイプの都市型災害が発生した.地震の名は「新潟地震」となっているが,震央は新潟と山形の県境の粟島付近で,震度がもっとも大きかったのは筆者が当時住んでいた山形県鶴岡市.完成したばかりの昭和大橋が落下したが,その時,橋の上で歩いていた人たちは幸いに無事であった.また信濃川沿いの川岸町に建っていたアパートが倒れてしまったことも知られているが,そのアパートには高校からの友人が住んでいた.アパートは川と反対側の陸側に倒れ,それは液状化で川側に側方流動が起こったためと考えられる.ゆっくり倒れたらしく,彼の家の冷蔵庫の中の玉子は割れていなかったそうである.

SMAC型強震計による観測は1953年頃から始まっていたが,最初に大地震が記録されたのがこの新潟地震のときである.倒れてしまった川岸町アパートの隣の棟に設置されており,長周期の地震動が明瞭に記録されている.

3.10.5 拠点間連携共同研究

「地震・火山科学の共同利用・共同研究拠点」である地震研究所は,「自然災害に関する総合防災学の共同利用・共同研究拠点」である京都大学防災研究所と,2014年度から地震・火山に関する理学的研究成果を災害軽減に役立てるための研究を推進するために,拠点間連携共同研究を実施している.両研究所の教員及び所外の教員からなる拠点間連携共同研究委員会を設置して,共同研究の基本方針を決定した上で,両研究所の拠点機能を活用し全国連携による共同研究を実施している.これまでに,震源から地震波伝播,地盤による地震動増幅,建物被害など,地震動被害に影響を及ぼす個別の要因を評価した上で,全体としての評価の精度を向上させることを目的として,南海トラフ巨大地震のリスク評価研究などを実施してきた.

沈み込み帯でのプレート間固着強度分布を把握するためには,海底地殻変動データに加え,通常の地震からスロー地震まで,プレート境界周辺での断層すべり運動の性質を理解することが重要である.南海トラフ沿い巨大地震断層域に当たる紀伊半島沖では,ケーブル式地震・津波観測監視システムDONETによって,海域下の多様な地震活動をリアルタイムで観測している.ここで観測される地震活動を詳細に把握するためには,特に速度の遅い堆積層を含む海底下S波速度構造を考慮に入れ,精度の高い震源分布を求める必要がある.これまでに,DONETの観測記録を用いたレシーバー関数解析によって,構造調査に匹敵する解像度でS波速度構造を推定できることを示している.

熊野灘より海溝軸近辺のスロー地震が比較的頻繁に発生する場所では,紀伊半島南東沖のDONET1と紀伊半島南西沖のDONET2の間に若干の観測網でカバーできていない領域が存在するため,海底地震計を用いた機動的観測を行うことによって海底下速度構造および震源決定の精度を向上させることができる.この目的のために,2019年6月に紀伊半島沖南海トラフ沿いに15台の海底地震計を設置して観測を開始し,現在も繰り返し観測を継続している.一方, 南海地震震源域西端にあたる,豊後水道沖の海域における地殻内地震波速度構造の詳細な解析を進めた.地震波構造調査で取得した海底地震記録に対して走時トモグラフィーおよび全波形インバージョン法を適用し,沈み込んだフィリピン海プレート上の海山に対応するように,P波速度の遅い領域が認められた.S波速度構造については地震波干渉法による解析を進めており,これまでにS波速度構造0.5〜1.0 km/sを持つ海底下浅部の構造を明らかにしている.さらに本海域周辺での広い範囲における地殻構造の高度化を進めている.

3.10.4 海域地震観測システムの開発

レイリー散乱光を用い,光ファイバーを振動センサーとして利用する分布型音響センシング(Distributed Acoustic Sensing,以下DAS)は,近年地震学の分野において急速に利用されはじめている.DASは,片端にある計測器から光パルスを出力し,光ファイバー内からの後方散乱光を計測することで,光ファイバー内のケーブル方向のひずみを高空間密度で取得することができる.本方式の計測上の特徴の一つとして,センサー部への電源供給が不要で,故障への耐性が高いことがあげられる.これはアクセスが困難な海域における観測用途として,優れた方式と考えられる.

地震研究所は,海底に設置した地震計・圧力計との通信目的で,伊東半島東方沖,三陸沖,日本海粟島沖に海底光ファイバーケーブルを所有している.このうち,予備のため未使用で光信号が通っていない芯線のある三陸沖ケーブルシステムを利用し,2019年からDASをもちいたキャンペーン観測を都度実施してきた.2022年には三陸沖の観測と並行して,伊豆半島東方沖および日本海粟島沖におけるDAS実施の検討を行い,実効性の観点から,日本海粟島沖で試験観測を行うための調査を開始している.この調査結果を踏まえ,2023年4月3日~6日にかけて,粟島沖におけるDAS計測を実施し,同海域においてDASデータをはじめて取得することに成功した.さらに同年9月5日,品質向上のため,海底ケーブル側の光コネクタ交換を行い,翌日にかけて断続的に試験データを再取得することができた.これらの観測実験を通じて海域計測システムの高度化をはかるとともに,日本海粟島沖における地震モニタリング技術向上を目指した研究を進めている.

3.10.3 比抵抗探査による三宅島火山深部構造の解明

三宅島では2012年と2019年にMagnetotelluric (MT)法による比抵抗構造調査が行われ,前者についてはすでにGresse et al. (2021)により解析済みであるが,後者については未解析であった.本研究ではより詳細なマグマ熱水系構造やその時間変化を議論するべく,これまで未解析であった2019年データについても解析を行い,2012年応答関数との比較やより高精度な3次元比抵抗構造推定を試みた.

はじめに各観測点(図3.10.1A)の時系列データから周波数領域のMT応答関数を算出した.phase tensor (Caldwell et al. 2004),impedance phaseの2種類の応答関数について2012年データと2019年データの比較を行ったが,全周波数領域わたり両観測間で目立った差は見られなかった.そこで2019年の応答関数に加えて2012年の一部観測点の応答関数も構造解析に利用することとした.

比抵抗構造の推定には,Usui (2015), Usui et al. (2017)による有限要素法の3次元インバージョンコードであるFEMTICを使用した.得られた3次元比抵抗構造モデルはGresse et al. (2021)に比べてより深部に感度をもつ.NE-SW断面(図3.10.1B)の浅部(<1km)に見られるように,山麓部では海水の浸透を示唆する顕著な低比抵抗領域(C1)がイメージされた.C1は海岸線付近に集中して存在しており,島内全域の地下にC1がイメージされた先行研究の構造とは異なっている.カルデラ直下には表層から深さ4kmまで鉛直状に伸びるもう一つの顕著な低比抵抗領域(C2)がイメージされた.C2の下部は,地球物理学的研究(e.g., Sakai et al., 2001)や岩石学的研究(e.g., Amma-Miyasaka and Nakagawa, 2003)から予想される浅部マグマ溜まり(深さ3-5km; 図3.10.1B)と重なる.感度解析の結果,浅部マグマ溜まり周辺の比抵抗値の範囲は2-6Ωmと求まった.新澪期の噴出物の平均的な組成のマグマを仮定し,この比抵抗値を再現しうる岩石メルトの存在度を見積もると10-30 vol%となる.C2の中心はこの上部に存在していることから,この低比抵抗領域は浅部マグマ溜まりもしくは地表へと上昇するマグマから放出された揮発性成分が濃集し,形成された火山性流体の存在領域と考えられる.

3.10.2 東北沖および関東地方での浅部スラブからの脱水と地震活動

機械学習およびS-netを用いて得られた東日本の新しい地震カタログについて解析を進めた.海域において深さの精度が改善されたこのカタログを活用し,プレート境界の位置を基準に上盤地震・プレート境界の繰り返し地震・スラブ地殻の3つのカテゴリの地震に分けて地震の空間分布を調査した.その結果,東北・北海道沖の海溝から160-200km,プレート境界の深さ35-50km付近に,帯状に上記の3つのカテゴリの地震全てが集中している領域があることがわかった.この鉛直の地震活動集中域は,プレート境界での温度が200-350℃付近に位置しており,スラブ地殻からの脱水により生じていると考えられる.スラブ地殻から供給される流体が,上盤に抜けていることにより,それよりも浅部のプレート境界では比較的流体圧が低く,固着が強いため大地震の主要なすべり域となっていると考えられる.また,フィリピン海プレートの存在により,低温環境にある関東地方においてはこの流体供給は内陸にシフトしており,首都直下での活発な地震活動および,フィリピン海プレート上での1923年関東地震のすべり域と房総スロースリップイベントの棲み分けを生じさせていると考えられる.

3.10.1 地震・火山噴火予知研究協議会企画部

全国の大学等が連携して実施している「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画」を推進するために,地震研究所には地震・火山噴火予知研究協議会が設置されている.地震・火山噴火予知研究協議会の下には,推進室と戦略室からなる企画部が置かれ,研究計画の立案と実施で全国の中核的役割を担っている.企画部推進室は,流動的教員を含む地震火山噴火予知研究推進センターの専任教員,地震研究所の他センター・部門の教員から構成されている.流動的教員は,地震研究所以外の計画参加機関にも企画部の運営に参加してもらうために,東京大学以外の大学,関連機関から派遣されており,2年程度で交代する.戦略室には,効果的に研究計画を推進するために,東京大学地震研究所以外の多くの大学や関連機関の研究者も参加している.企画部では次のような活動を行っている.

  1. 協議会の円滑な運営のため常時活動し,大学等の予算要求をとりまとめる.
  2. 地震・火山噴火による突発災害発生時に調査研究を立ち上げるためのとりまとめを行なう.
  3. 大学の補正予算等の緊急予算を予算委員長と協議し,とりまとめる.
  4. 研究進捗状況を把握し,関連研究分野との連携研究を推進する.

2023年には,2023年5月5日の地震を含む能登半島の地震活動のための調査研究計画のとりまとめを行った.毎年3月に成果報告シンポジウムが開催され,大学だけでなく研究計画に参加するすべて機関の研究課題の成果が発表される.2023年はハイブリッドで実施された.科学技術・学術審議会測地学分科会が毎年作成している成果報告書では,各課題の成果報告に基づいて全体の成果の概要をとりまとめており,文科省のHPで公開されている.2023年は1923年の関東大震災から100周年にあたることから,関東地震100年国際シンポジウムを開催した.また,地震・火山噴火予測研究の現状を正確に社会に伝えることを目的として,主に報道関係者を対象とするサイエンスカフェを6回オンラインまたはハイブリッドで開催した.それらの活動については,facebookを用いて随時情報提供している.

3.10 地震火山噴火予知研究推進センター

教授 加藤尚之(センター長),吉田真吾,加藤愛太郎(兼任),望月公廣(兼任),大湊隆雄(兼任),上嶋誠(兼任)
准教授 小山崇夫,内田直希,石山達也(兼任)
助教 山田知朗
特任研究員 松永康生
学術専門職員 荒井道子