
光電子増倍管検査室.一度に100本の光電子増倍管の検査を行うことができる.
光電子増倍管検査室.一度に100本の光電子増倍管の検査を行うことができる.
(a)電磁成分検出用の宇宙線検出器の模式図.(b)室内での水タンクを用いた較正試験の様子.(c)有村観測坑道における電磁成分強度(大気効果補正後)の時系列と48時間雨量の比較.(d)線形回帰分析の結果.
a)クレーター上空、b)東の空、c)南西の空から見た、伊豆大室山スコリア丘の3次元密度分布。赤く透明度が低いこころほど高い密度を意味する。オレンジ色の点は観測器の位置を表す。緑色の数字1は溶結した主火道、2A, 2B, 2Cは噴火終盤に主火道から山体に貫入したマグマが冷えて固まったもので、このうち西に伸びた2Aは小さな溶岩流を作り、南南東に伸びた2Bは山腹の小火口を形成した。3は岩室山溶岩ドームである。この図はhttps://www.eri.u-tokyo.ac.jp/CHEER/data/omuro3ds/ で公開されている。
桜島火口近傍において得られたミュオグラフィ密度(黒丸)、SAR変位(実線)、噴火頻度(棒グラフ)の比較。南岳火口(a)、昭和火口(b)、それ以外の場所(c)が比較されている。
図3.8.4 3次元Voxel集合体における Ray tracing algorithm可視化の例。青い直線と当たり判定のあるVoxelは黄色にハイライトされている。(a) 俯瞰視点 (b) Z軸方向から見たケース (c) Y軸方向から見たケース。
図3.8.3 桜島火口近傍において得られたミュオグラフィ密度(黒丸)、SAR変位(実線)、噴火頻度(棒グラフ)、SiO2放出量(赤四角)の比較。上から順に南岳火口(a)、昭和火口(b)、それ以外の場所(c)が比較されている。
図3.8.2 コアサンプルのCT画像.左から6m, 30m, 45m.白いほど高密度.赤矢印は断層面の位置を示す.全て左側が上盤側.
図3.8.1 桜島における火口近傍の密度構造の時系列変化。
2006年に地震研究所が火山内部を世界に先駆けて描き出して以来,ミュオグラフィは急速に世界に広まりつつある.ミュオグラフィとは,宇宙線に含まれる高エネルギー素粒子・ミュオンの強い透過力を利用して,キロメートルを超えるサイズの巨大物体内部を透視し,その内部の密度構造を可視化する技術である.これまで第2世代システムのノイズ低減能力を強化することで2013年に薩摩硫黄島で発生した噴火において,マグマの昇降をとらえることに成功しているが,薩摩硫黄島は小規模火山として位置付けられるため,ミュオグラフィを桜島のような中規模火山に適用しようとすると,より厚い岩盤を通り抜けることができる極めて低強度のミュオンを一定時間内にできるだけ多く記録する必要がある.そのために2014年に設置された桜島ミュオグラフィ観測所(SMO)を観測装置の並列化により継続的に強化してきた.
2015年から2017年にかけて学術交流協定,知的財産協定など種々の協定を締結してきたハンガリー科学アカデミーウィグナー物理学研究センターとの協働により,2017年には軽量高解像度ミュオグラフィ観測システム(Multi-wire-proportional-chamber-based Muography Observation System; MMOS)を開発した.これは軽量でありながらも第2世代システム以上の高いノイズ低減能力と従来技術を一桁以上凌駕する解像力を実現した.ただ,有感面積が不十分であったため,2018~2019年にかけて口径を順次拡大し,現在では5.9㎡となっている.2019年度はこれをさらに拡大し,2020年に入るまでに総有感面積は9㎡に到達した.また,2019年度には並列化に起因する故障率を低減する目的で複数台の観測装置すべての通信系統を無線化することで通信故障率が軽減されたが,2020年度は電気系統においても,安定運用を妨げる要因があることが明らかとなり,その対策を講じている.
一方,並列化の段階で得られたデータについても解析・解釈が進んだ.2017年終わりから2018年初めにかけて桜島における噴火が昭和火口から南岳火口へと推移したが,それに合わせて観測された昭和火口底直下における直径200m程度の密度上昇現象について考察を行い,それがプラグ様の物体であることが分かった.2020年度も引き続き口径を拡大することで時間分解能を上げ、 時系列画像を取得していった結果、南岳火口下にプラグ形成を示唆する高密度構造物の成長が見られた。このプラグは南岳火口の活発化に伴って形成されつつあるものであることが想定されるが,今後更に時間分解能を上げた解析によって,切迫性評価にどう活用できるか引き続き火山学の各分野の研究者とさらに連携して検討していく.2022年度までに大口径化(約10平米)を達成した多線比例係数管方式の高解像度軽量ミュオグラフィ観測装置を用いることで桜島において低雑音の連続観測を行うことができるようになった。その結果、時系列的な火山透視画像を定常的に生成できるようになり、噴火推移に伴う事象分岐を調べる手段の準備が整った。2023年2月ごろ、南岳火口から昭和火口に突如として噴火活動が推移した。その後も南岳火口及び昭和火口双方からの噴火が続いている。ミュオグラフィ観測データの解析により、噴火が発生している火口の間で密度増加のスイッチングが起きていることが分かった。すなわち、南岳火口が噴火しているときには南岳火口近傍の密度が上昇して、昭和火口近傍の密度が減少する。昭和火口が噴火しているときには昭和火口近傍の密度が上昇して、南岳火口近傍の密度が減少することが分かった(図3.8.1)。
宇宙線ミュオンは上空からのみ飛来する.したがって,断層破砕帯や地滑り面等の地下構造を透視するためには,測定対象を見上げるように,ミュオン検出器を地下深く掘削坑(ボアホール)等に埋設することが必要となる.しかし,ボアホールのような狭隘な空間では,センサーの有効面積を大きくとることが困難であり,ミュオン・フラックスは限られた量しか得られないので,それを有効に活用する観測技術の開発が不可欠となる.
首都直下地震の正確な被害想定のためには,正確な震度予測が不可欠である.震度予測を行うためには,震源断層の特定と,断層姿勢,すべり量,そして断層の粗さについての理解が重要であるが,特に断層の粗さについては未解明の点が多く,観測に基づく定量的評価はほとんどなされていない.この観測の空白域を埋めるために,断層物質の直接サンプリングと,ミュオン透視を組みあわせ,断層粗さの直接観測を目指している.今年度は関東大震災及び元禄地震の震源域の一部と推定されている,房総半島南部の石堂断層のミュオン透視の観測準備・昨年度に得られたコアサンプルの分析・新たに製作したボアホールミューオン検出器の性能評価を行った。コアサンプルのCT画像分析(図3.8.2)から,深さ6 m,30 m, 45m の位置に、密度差を伴う明瞭な断層が発見された.これらの断層は概ね平行であったが,浅い地点の断層ほど、高角になっていく傾向が見られた.他の深さでも断層は多数観察され,当初の予想と異なり断層面周辺は複雑な密度構造をしていることが分かった.