「EVIC」カテゴリーアーカイブ
3.12.8 インターン学生の受け入れ・国際共同研究
2023年2-3月に、チリのパタゴニア地方、タイタオ半島において、カトリカ大学(当時)のAndres Veloso教授と学生5名とともに、湧出する温泉の調査を行った。沿岸から湧出する温泉の温度は最高97℃と高温であることや、湧出する場所が別途地質調査から判明している破砕帯の位置に一致することなどが判明した。また温泉地帯の沖合で地形調査・温度計測を行い、海底からの熱水湧出の可能性のある水温異常を検出した。その後、調査に参加した大学院の学生が地震研究所に5か月滞在し、タイタオ半島の断層分布をもとに熱水循環計算を実施している。さらに、2024年度に新たな海洋調査をチリ三重会合点で実施する計画が、Andres Veloso教授から伝えられ、協力することで合意した。
IODP(国際深海科学掘削計画)で実施した南海トラフ地震発生帯掘削を総括するワークショップを開催した。またIODPに続く新たな海洋科学掘削計画(IODP3)の制度設計に、JDESC理事として参加した。中でも掘削提案の作成を行う国際ワークショップの開催を欧州の研究者とともに主導した。
日本海溝海側の正断層付近の流体移動様式解明のため、新青丸に乗船して熱流量測定を行った。また同海域周辺の研究結果に関する共同利用研究集会を東北大学の平野氏と共催した。
3.12.7 古い地震・津波の研究
(1) 古い地震記録に基づく地震・津波の研究
地震研究所や気象庁などに保存されている古い地震記録を用いて過去に発生した大地震の研究を行っている.関東地震発生100年を機に,地震研究所に残る関東地震の本震の地震記象について特徴をまとめ,特集ページで画像とともに公開した.データベース公開に向け,1923年関東地震の記録の数値化を継続している.
(2) 史料に基づく古地震・津波の研究
2017年度に地震研究所と史料編纂所の部局間連携機構として「地震火山史料連携研究機構」が設置された.この機構では,地震研究所で刊行されてきた『新収日本地震史料』等の史料集を電子化した上で,原本もしくは翻刻した刊本を参照して点検する校訂作業を行っているほか,各地の日記などに書かれた被害を伴わない地震も含めた「日記史料有感地震データベース」を作成している.
大正・元禄以前の関東地震の候補として,1495(明応4)年,1433(永享5)年,1293(正応6)年,878(元慶2)年が挙げられているが,これらの組み合わせによって今後30年間の発生確率が0~19%と大きく変化することを示した.また,1923年の関東大震災の際に日本に滞在していた外交官が本国に報告した文書を整理して刊行した.
(3) 地質痕跡に基づく古地震・津波の研究
琉球海溝沿いのサンゴのマイクロアトールの形状・年代から過去の水面変動を復元する研究を,パリ地球物理研究所や琉球大学などと共同で行っている. 2018年に石垣島・宮古島などで採取した現生のサンゴ試料について解析結果を出版し,化石サンゴについても分析を進めた.また,トンガにおいて津波で移動した巨礫(津波石)の放射年代や残留磁気を測定し,津波の発生年代を推定した,
特定共同研究「地質記録と数値シミュレーションに基づく南海トラフ〜琉球海溝の長期間の津波発生履歴と巨大地震破壊域の解明」では, 鹿児島県志布志湾に面する沿岸低地において津波堆積物の掘削調査を行った.また,この地域における津波堆積物は火山砕屑物で構成されているため,その標準試料を採取するための露頭調査も実施した.採取した試料に対しては,粒度分析,地球化学分析や火山灰分析,放射性炭素年代測定などを行い,調査地域の沿岸に存在していた火山砕屑物が,約4600年前に発生した津波によって再移動した可能性を示した.
3.12.6 巨大地震・津波の研究
津波データや測地データ,地震データを用いて,世界の巨大地震の断層運動の詳細や津波の発生過程について調査している. 2011年東北地方太平洋沖地震を対象に,津波の遡上高と堆積物の層厚から,波源を推定できるかどうかの検証を行った.2022年1月にトンガ諸島で発生した火山噴火による津波について,日本周辺や太平洋の津波記録の解析を継続している.2023年2月にトルコで発生した地震によって生じた小津波について,その発生源は地震による地殻変動ではなく,地すべりなどの二次的なものであることを示した.S-netの津波記録の機械学習によって,津波が沿岸に到達する前に精度良く予測できることを示した.
3.12.5 日本列島の地震活動を予測するモデルの作成(CSEP-Japan)
地震カタログデータに基づく確率論的な予測を行うために,CSEP (Collaboratory for the Study of Earthquake Predictability)を世界規模で実施しているSCEC (Southern California Earthquake Center) と連携を図り,CSEP日本テストセンターを立ち上げ,日本における地震発生予測検証実験を実施している.テスト領域として日本周辺,内陸日本および関東地域,テスト期間として1日,3ヶ月,1年および3年毎の合計12のテストのクラスを整備して実験を進めている.
3.12.4 高密度強震観測データベース
(1) 首都圏強震動総合ネットワークSK-net の構築と運用
首都圏強震動総合ネットワーク(SK-net)は,首都圏の10 都県の14 観測網から,合計1198 観測点の強震波形データを収集し,公開するシステムである.10 都県のうち5 自治体については,波形収集装置を開発してオンライン収集を,残りの自治体については,オフラインもしくは自治体側で用意したサイトでデータ提供して頂いている.これらの観測網のデータ収集方式やフォーマットはそれぞれ異なるので,一旦共通フォーマットに変換してデータベース化し,加速度,速度,変位のグラフおよび最大値,SI (Spectral Intensity) 値,速度応答スペクトルを SK-netウェブサイトで一般に公開している.オリジナルの波形データは,全国の大学等の研究者の利用を可能にしており,2023年度は38名の利用申請を受け付けた.データは,1999年1月から2024年2月までに収集されたデータを順次利用可能にしている.
3.12.3 地震データ解析とその公開
本センターではWWWサーバを立ち上げ,地震・火山等の情報提供を行ってきた.広報アウトリーチ室が設置されてからは,本センターはそれをサポートしている.
(1) 地震カタログ解析システム等
研究者向け情報としては,日本や世界の地震カタログをデータベース化し,地震カタログ検索・解析システムTSEISを開発し,地震活動解析システムとして公開している.
利用可能な地震カタログは,国立大学観測網地震カタログ(JUNEC) ,防災科学技術研究所地震カタログ,気象庁一元化地震カタログ,グローバルCMT地震カタログ,ISC 地震カタログなどで,多くの研究者に活用されている.また,我が国の地震や世界の地震について気象庁やNEIC などが速報として提供したものを,国内の研究者にメール配信している.気象庁の一元化震源については,そのミラーを行う機器を更新して運用を継続し,大学等の研究者に提供している.
(2) 長周期波動場のリアルタイムモニタリングGRiD MT
全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet で提供されている広帯域地震波形データを利用して,震源速報等の地震情報を必要とせずに,地震の発生・発震機構(MT 解)・大きさ(モーメントマグニチュード) をリアルタイムに決定する新しい地震解析システムGRiD MTを開発して,その解析結果をWeb やメールでリアルタイムに情報発信している.現在までに得られた,解析結果についてはGRiD MTウェブサイトで公開している.巨大地震や津波ポテンシャルをW-phaseにより評価するイベント駆動型のシステムを開発し,解析結果を世界中の地震のサイトおよび日本の地震のサイトにて公開している.2023年においては,世界の地震については124個,日本の地震については577個のモーメントテンソル解(VRが70以上)を決定した.
(3) 古い地震記象の利活用
地震研究所には各種地震計記録(煤書き) が推定で約30 万枚ある.この地震記録を整理し利用しやすい環境を作るため,本センターが中心となって所内に「古地震古津波記録委員会」が設置され,1) マイクロフィルム化やPDF等の電子化,2) 検索データベースの作成,3) 原記録の保存管理などが行われている.煤書き記録については,約22 万枚のマイクロフィルム記録のリスト,WEB 検索システム(日本語・英語)を作成し,国内外のユーザーの利用に供している.津波波形記録については,マイクロフィルムと,スキャナーでスキャンしたデジタルデータが津波波形データベースシステムで公開されている.
このほかに,20 世紀の巨大地震の世界各地での地震記象を入手しており,それをスキャンし,画像データとして保存し公開すべく作業を進めている.2023年においては,和歌山観測所の連続記録の画像化を引き続き進めた.
3.12.2 全国共同利用並列計算機システムの提供
本センターは,全国共同利用の計算センターとして,データ解析やシミュレーションなどのために,高速並列計算機システムを導入し,全国の地震・火山等の研究者に提供している.2020年3月にシステム更新を実施し,現在はHPE ProLiant DL560 Gen10システムが稼働している.このシステムは,計算サーバとして120ソケット(2400Core),22.5TiB メモリ,それらのフロントエンドサーバとして4ソケット(80Core),1.5TiB メモリを有している.この分野の計算需要の伸びは著しく,恒常的に処理能力の限界に近いところまで利用される状況が続いている.システムは,例年毎月平均70 ~ 90 名が利用しており,そのうちの5 ~ 6 割 が地震研究所外から共同利用で利用している大学や研究所の研究者となっている.本センターでは,利用マニュアルをインターネットで公開し,また,初心者の並列計算利用者を対象とした利用者講習会を毎年開催している.
3.12.1 全国の地震データ流通とデータベース
(1) 全国地震観測データ流通ネットワークJDXnet
新しい大学間の全国地震観測データ流通ネットワークJDXnetを各大学や防災科研との共同研究として開発した.JDXnet は,衛星回線に代わって,国立情報学研究所(NII) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークSINET,情報通信研究機構(NICT) が運用する全国規模の超高速広域ネットワークJGN,さらにNTT が提供するフレッツ回線などの地上回線を利用した次世代データ流通ネットワークである.JGNとSINETの広域L2 網を用いてデータ交換ルートを二重化し,安定性と信頼性を高めたシステムを運用している. 2023年も,JGNの仮想化サービスを用いてクラウド型データキャッシュサーバを引き続き運用し,災害時などにおけるネットワーク障害に強いシステムの開発を継続した.今後も,各研究機関で地震観測データを安定して利用できる環境を整備し地震学の研究進展に資することを目指す.
(2) 新J-array システム
新J-array システムは,世界の大地震(M5.5 以上,日本付近はM5 以上) の発生時に日本列島で観測された地震波形データを30 分から2 時間の長時間記録として保存したものである.波形データは準リアルタイムで処理しJ-arrayサイトで即日公開している.これまでNEICからのQEDメールを利用した自動化処理を行っていたが,USGSのWebページから地震情報を自動的に収集するシステムを2020年度自動化システムを改良し,2023年度はそのシステムを継続運用した.
(3) 全国地震波形データベース利用システム HARVEST
各大学が収集している地震波形データを全国地震データ等利用系システムサイトに公開し,データの活用ならびに各大学と全国の研究者の共同研究を推進するためのシステムHARVESTを開発し,各大学に提供している.このシステムにより,どこの大学の利用システムでも共通のインターフェースで地震波形データを利用したり,データ利用申請したりすることが可能となっている.2023年においては,各地域の地震活動のみの提供を継続して行った.
(4) チャネル情報管理システム
チャネル情報管理システム(CIMS)は,地震観測点のチャネル情報を管理するデータベースである.2007年10 月にこのシステムの運用を開始したが,これまでの運用状況やミドルウェアの更新状況等を踏まえて将来の運用について見直しを継続して行った.
(5) 緊急地震速報の伝達と利活用
気象庁に予報業務許可申請(地震動) を行い,予報業務の許可のもと,東京大学情報ネットワークシステムUTNET やSINET 等のネットワークを介して緊急地震速報の伝達を行っている.学内で,緊急地震速報の仕組みや技術的限界を周知し,利用するための必要な事柄を検討し,Web コンテンツと同様なアクセスのみで緊急地震速報を簡便に受信できるようにし,端末表示装置の開発も行った.情報学環総合防災情報研究センターと共同で,学内に複数の配信サーバを設置して,全学に緊急地震速報を提供している.また、学内の放送設備に接続して緊急地震速報を放送する装置を開発して,本郷キャンパスの主要な建物のほぼすべてに緊急地震速報を放送可能にしている.また東京大学本部の防災訓練,理学部や工学部,地震研等の部局の防災訓練,駒場キャンパスや柏キャンパスの防災訓練,医科研や附属病院における防災訓練などにおいて,本装置による緊急地震速報の訓練放送が活用されている.2023年度においては、Webによる緊急地震速報サーバの更新を実施した.
3.12 地震火山情報センター
教授 | 佐竹健治, 木下正高 |
准教授 | 鶴岡弘(センター長),中川茂樹 |
外来研究員 | 室谷智子, 山田昌樹,山野誠,王 宇晨 |
技術補佐員 | 金澤久美子 |